風神録 土着神の頂点
守矢の神社に住む本当の神様。
山の神様であり、山に住んでいた様々な神様のリーダーでもあった。
遙か古代、彼女は驚異的な信仰心を得ていた『ミシャグジ様』を束ねていた神だった。
ミシャグジ様とは、生誕、農作、軍事、様々な事柄の祟り神であり、
蔑ろにするとたちどころに神罰が下るという恐怖の神様である。
その神様をコントロールできたのが諏訪子だけであった。
その為、彼女への信仰心は凄まじく、当時は神であると同時に一国の王として王国を築いていた。
だが、そんな彼女の王国の元に大和の神々が侵略してきたのである。
王国を訪れた大和の神とは、神奈子であった。
大和の神々は、小さな王国を次々と自分の物にしていった。
最終的に全ての国を統一し、日本という一つの国にするつもりであると言った。
勿論、諏訪子は抵抗し当時最先端であった鉄製の武器を持って戦った。
しかし、神奈子は細い植物の蔓をかざすと、諏訪子が持っていた大量の鉄の輪は、たちまち錆びてボロボロになってしまった。
その神力の差に敗北を確信した諏訪子は、潔く降参し王国を明け渡した。
そして、神奈子は洩矢の王国を手に入れたのだ。
しかし、洩矢の王国の人間は、土着の神であったミシャグジ様の恐怖を忘れることが出来ず、
新しい神様を受け入れようとしなかった。神奈子は信仰心が得られないのならと、
この王国を自分の物にするのは諦めた。代わりに新しい神様を呼び洩矢の神と融合させて、
その神様を王国の中では『守矢(もりや)』、外では別の呼び名で呼び分ける事にした。
これにより王国を支配しているように見せたのだ。守矢とは勿論、洩矢の事である。
そして神奈子は、諏訪子の力を借りて自ら山の神様としてこっそり君臨する事になった。
この王国を支配したと言われる新しい神様とは、大和の神話の名目を保たせる為の名前だけの神であった。
実際は、諏訪子が引き続き王国を支配していたのである。
現在外の世界の神様は殆どが大和神話に置き換わったというのに、彼女は未だ古代の姿のままひっそりと信仰を得ていた。
しかしながら、その長きに渡って得続けた信仰も、科学の時代となるとどんどんと失われていった。
諏訪子はさほど気にしていなかったのだが、焦った神奈子は神社ごと幻想郷に持ってくるという荒技を実行してしまった。
諏訪子が幻想郷で上手くやっていけるのか判らなかったが、最後の遊びとして楽しむ事にした。
何故、勝手に王国を捨て、幻想郷にやってきた神奈子と揉めなかったのかというと、
もう外の世界には未練が無かったからである。自分の名前を知っている人間は殆ど居なかった。
何せ、最も近い人間であるはずの早苗ですら、諏訪子の事をよく判っていないのだ。
早苗は今では神奈子の巫女であるが、奇跡を呼ぶ事が出来るのは彼女が実は、諏訪子の遠い子孫だからである。
にもかかわらず、早苗は何故自分の神社に二人の神様がいるのかですらよく判っていないという有様だ。
もはや、諏訪子は忘れ去られようが何だろうが構わなかった。
むしろ幻想郷で第二の人生を送る事が出来そうで、実際は神奈子に感謝している。
さて、神奈子は風の神でありながら、何故蛇を模したしめ縄をトレードマークにしたのだろうか?
その理由は二つある。
一つは、蛇が再生の意味を持っていたから。ミシャグジ様の恐怖に対抗する為だ。
そして、もう一つは……。諏訪子に勝った事をさり気なくアピールする為だった。
なんでかって?
諏訪子は蛙の姿をした神であり、そして蛇は蛙を食べる動物だからである。
新しい王国の神事にも、蛙を生け贄にする事などを盛り込み、
人間に『この王国は蛙に代わって蛇が支配した』とアピールし続けた。
これが、諏訪子と神奈子がよく喧嘩する原因の一つだった。
本当は利害も一致しているし、凄く仲がよい。
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