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花の下にて春死なむ
「ねがはくは はなのしたにて はるしなむ
そのきさらぎの もちづきのころ」
── 『続古今和歌集』 1527
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幽々子 「それでね、妖夢ったら靴を頭の上に乗っけて……」
紫 「まあ、妖夢に猫は斬れないわねぇ、猫は。
ところで。話は変わるけど、そろそろ見えるころかしら?」
幽々子 「もちろん、今夜も無理よ」
紫 「あーん、楽しみにしてたのに」
幽々子 「嘘ばっかり。こんなに団子が丸いから月は丸いと思えるし、
こんなに古いお酒だから、嘘臭い月の歴史も感じられるんでしょう。
紫が、そう言い出したんじゃない」
紫 「そうそう。これが私たちの雨月の愉しみ。
憧れは、あらゆる空想を幻想に変える。
そのまま目を瞑れば、私は蝶にだってなれる」
幽々子 「ねえ、紫──」
紫 「どうしたの?」
幽々子 「──紫も、死んでみない?」
紫 「あら、それも良いかもね」
幽々子 「冗談よ」
紫 「憧れは、心ここに非ず。憧れが過ぎると、魂は戻らない。
私は──死に興味があるわ。憧れているのかもしれない」
幽々子 「みんなそうよ。だって、生きているうちに経験出来ないんだから」
紫 「誰もがきっと、生きているように死んでいくのよ。
だからこそ、私は死に方を考えられる人を評価する。
それこそが、純粋な死への憧れなのだと思うわ」
幽々子 「まだ準備中という事ね?」
紫 「そういうこと。残心よ」
幽々子 「それなら朝まで呑みましょう。残月よ」
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願はくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ
(願わくば、桜の下で春に死にたい。
釈迦が入滅された二月の満月の頃に)
── 西行
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