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藤波今咲きにけり
「こひしけば かたみにせむと わがやどに
うゑしふぢなみ いまさきにけり」
── 『万葉集』 8-1471
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紫 「思い詰めているようね」
早苗 「わっ……何だ、貴方ですか……。
いつから見てたんですか?」
紫 「ずっと。私は他人の不幸が大好きなのです」
早苗 「ああ、飯三杯いけるアレですか。
でも残念ながら、私不幸なんかじゃありませんから」
紫 「おかずにくらいは出来ないかしら?」
早苗 「それが、私にも判らないんです……。
境内に咲いたあの藤を見ていると、胸が熱くなって……。
それが何故だか判らなくて、不思議でならないんです」
紫 「ああ、三杯分いけたわね」
早苗 「ふざけないでください。私は真剣に──」
紫 「花には想いが残り続ける。
貴方には、幻想入りする前の記憶はあるの?」
早苗 「え? 幻想郷に、来る前の……?」
紫 「無いのでしょう。博麗大結界は記憶の境界。
飛び越えたら最後、もう戻れない。でも、
人よりも儚い花は、記憶を伝えようとする意志が人より強い。
貴方はあの藤に、記憶の残滓を感じ取ったのでしょう」
早苗 「記憶の残滓……? どうして貴方にそんな事が……」
紫 「私は、他人の不幸が大好きなのです」
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恋しけば 形見にせむと 我が屋戸に 植えし藤波 今咲きにけり
(貴方が恋しいので形見にしようと、
庭先に植えた藤が、今、咲いています)
── 山部赤人
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