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君が代
「わがきみは ちよにやちよに さざれいしの
いわおとなりて こけのむすまで」
── 『古今和歌集』 343
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紫 「何をしているの?」
霖之助 「ああ、君か。相変わらず扉を無視して入ってくるね」
紫 「だって、鈴を鳴らされるんですもの」
霖之助 「そのためにあるんだけどね。
僕が見ていたのは『君が代』の楽譜だよ。
懐かしいね。曲がついたのは、結界が出来る少し前だった」
紫 「最初の楽譜が流れ着いてきたのね。
君が代という曲は、古代からずっとあると思われ始めたのよ。
もちろん、和歌は昔からあったけどね」
霖之助 「外の世界では、この曲が国歌になっているらしい。
でも僕には『国』というものが、いまいち判らないよ」
紫 「『国』は対外関係があってはじめて意識されるもの。
たとえば外の世界があって、はじめて幻想郷が認識できるように。
鎖国状態の貴方が『国』を理解できるはずもないわ」
霖之助 「また外の世界か。でも僕は開明派だよ。
自ら外の世界を巡って、『おさがり品』を超えた品が欲しいんだ」
紫 「……まあ、そんなことより一つ教えてあげましょう。
この歌が、少しおかしい事には気づいたかしら?」
霖之助 「おかしい?」
紫 「人間はね、岩が風化するのはよく知っているけど、
細かい石が『巌』になるなんて、知りようがないの」
霖之助 「そうなのかい? 石は成長するものだろう?」
紫 「あはは、疑問に思わない貴方は古い人間だわ。
きっと外の世界に行ったら幻滅するでしょう。
この歌には『アニミズム』の精神が凝縮されているのね」
霖之助 「古い人間……どういう意味なんだ」
紫 「褒め言葉よ。それでは、ごきげんよう」
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我が君は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで
(愛しい貴方よ、細かい石が岩となって、
そこに苔が生えるまで、ずっと生きていてほしい)
── 読人知らず
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