Radical   Discovery 



  
衣乾したり天の香具山


  「はるすぎて なつきたるらし しろたへの
          ころもほしたり あめのかぐやま」

                      ── 『万葉集』 1-28



  「……ますか……聞こえますか……紫様。
    いま……貴方の耳元で直接語りかけています……」
  「……そこまで耳は遠くないけど」
  「はぁ、すみません。 良く寝ておられましたので」
  「そりゃ寝るでしょ。だって春はまだでしょう?」
  「ええ、まあ。実は、暦の上では立派な春なのですが……
    ご覧の通り、山は今日も真っ白な雪に覆われています」
  「じゃあ冬ね。冬眠暁も見えずだわ。おやすみ」
  「お、お待ちください!」
  「もう、何なのよ。春に雪が降ったって良いじゃない。
    冬好きの妖精は長生き出来るし、私は二度寝出来る。
    誰も困らないし、不都合なんて何処にも無いわ」
  「しかしですね──」
  「しかしもお菓子もありません」
  「冥界の桜だけは、例年以上に咲いているのです」
  「……まあ、そういうことも、たまにはあるわ。
    例外に対する処置に疎いのが、式神たる貴方の欠点よ。
    疑問に思ったのなら、貴方が動きなさい。おやすみ」
  「ちょっと、紫様……!?」



春過ぎて 夏来るらし 白たへの 衣乾したり 天の香具山
  (春は過ぎて、夏がやって来たらしい。
     香具山に、白い布が干してあるのが見える)

                             ── 持統天皇