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衣乾したり天の香具山
「はるすぎて なつきたるらし しろたへの
ころもほしたり あめのかぐやま」
── 『万葉集』 1-28
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藍 「……ますか……聞こえますか……紫様。
いま……貴方の耳元で直接語りかけています……」
紫 「……そこまで耳は遠くないけど」
藍 「はぁ、すみません。 良く寝ておられましたので」
紫 「そりゃ寝るでしょ。だって春はまだでしょう?」
藍 「ええ、まあ。実は、暦の上では立派な春なのですが……
ご覧の通り、山は今日も真っ白な雪に覆われています」
紫 「じゃあ冬ね。冬眠暁も見えずだわ。おやすみ」
藍 「お、お待ちください!」
紫 「もう、何なのよ。春に雪が降ったって良いじゃない。
冬好きの妖精は長生き出来るし、私は二度寝出来る。
誰も困らないし、不都合なんて何処にも無いわ」
藍 「しかしですね──」
紫 「しかしもお菓子もありません」
藍 「冥界の桜だけは、例年以上に咲いているのです」
紫 「……まあ、そういうことも、たまにはあるわ。
例外に対する処置に疎いのが、式神たる貴方の欠点よ。
疑問に思ったのなら、貴方が動きなさい。おやすみ」
藍 「ちょっと、紫様……!?」
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春過ぎて 夏来るらし 白たへの 衣乾したり 天の香具山
(春は過ぎて、夏がやって来たらしい。
香具山に、白い布が干してあるのが見える)
── 持統天皇
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