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草葉も物は思ひけり
「われならぬ くさばもものは おもひけり
そでよりほかに おけるしらつゆ」
── 『後撰和歌集』1281
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小町 「おや、いつぞやの。お前さんも暇な妖怪だねぇ。
ここで石を積んだって何の功徳にもならんよ」
紫 「賽は投げられたというのに、
人間は何故、こんな世界に執着するのかしらね」
小町 「執着しているのはお前さんだよ。
賽の河原に留まる人間は、四季様が救ってくださる。
それを永劫の苦難だとしたのは顕界の幻想だ」
紫 「貴方には、向こう側が見えるのね」
小町 「見えやしないさ。
私は人を彼岸に届けるまでのしがない船頭。
彼岸を知り得るのは、死んだ者だけだ。
お前さんも、誰かを想っているなら諦めな」
紫 「誰にも辿り着けない場所がある」
小町 「当たり前さ。妖怪のお前さんに往けるわけがない。
ま、向こうからはいつでも訪問できるから、安心しなよ」
紫 「こちら側に戻ってくるのも、おかしな話ね。
草木も涙するようなこんな世界に」
小町 「生きている連中を放っておけないのさ。
……と言いたいところだけど、裁判まで暇なだけだろうね」
紫 「みんな暇なのね」
小町 「お前さんほど暇な奴もそういるまい。
ま、知り合ったよしみだ。少しぐらいなら話し相手になってやろう」
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我ならぬ 草葉も物は 思ひけり 袖より外に 置ける白露
(私ばかりでなく、草葉も物思いをするのであった。
私の袖のほかにも、白露が置いてあるのが見える)
── 藤原忠国
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