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耳なしの山のくちなし
「みみなしの やまのくちなし えてしがな
おもひのいろの したぞめにせむ」
── 『古今和歌集』 1026
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紫 「こんな時に天狗は何をしているのか」
文 「よっと」
紫 「この能無しが」
文 「あやややや……これはこれは、今日は何用で」
紫 「貴方、今回の騒動の時は何をしていたの?」
文 「へ、へぇ。いつも通り取材に東奔西走……」
紫 「そう、吸血鬼と怪獣ごっこしていたの。
働かない天狗がいるから天網が腐る。
貴方が素早く動いていれば、天は味方したかもしれない」
文 「な、何の話でしょう……」
紫 「鳴く猫は鼠を捕らぬ。
耳なし天狗の減らず口は、一度懲らしめなくてはね」
紫 「さて、通らせてもらうわよ」
文 「一体何なの〜」
紫 「日が暮れてきたわ。
貴方には見えるかしら? 私に宿った緋色の心」
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耳なしの 山のくちなし えてしがな 思ひの色の 下染めにせむ
(耳成山のクチナシの実が欲しいものだ。
それで誰にも知られぬ思いを下染めしたいから)
── 読人知らず
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