Radical   Discovery 



  
耳なしの山のくちなし


  「みみなしの やまのくちなし えてしがな
          おもひのいろの したぞめにせむ」

                 ── 『古今和歌集』 1026



  「こんな時に天狗は何をしているのか」
  「よっと」
  「この能無しが」
  「あやややや……これはこれは、今日は何用で」
  「貴方、今回の騒動の時は何をしていたの?」
  「へ、へぇ。いつも通り取材に東奔西走……」
  「そう、吸血鬼と怪獣ごっこしていたの。
    働かない天狗がいるから天網が腐る。
    貴方が素早く動いていれば、天は味方したかもしれない」
  「な、何の話でしょう……」
  「鳴く猫は鼠を捕らぬ。
    耳なし天狗の減らず口は、一度懲らしめなくてはね」

  「さて、通らせてもらうわよ」
  「一体何なの〜」
  「日が暮れてきたわ。
    貴方には見えるかしら? 私に宿った緋色の心」



耳なしの 山のくちなし えてしがな 思ひの色の 下染めにせむ
  (耳成山のクチナシの実が欲しいものだ。
     それで誰にも知られぬ思いを下染めしたいから)

                         ── 読人知らず