Radical   Discovery 



  
むらさきの色


  「むらさきの いろにこころは あらねども
          ふかくぞひとを おもひそめつる」

                    ── 『新古今和歌集』 995



  「あら、おかしいわ」
 萃香 「何がおかしいのさ。ようこそようこそ」
  「貴方と飲むつもりじゃなかったんだけど」
 萃香 「彼奴なら居ないよ。まあまあ、一杯やろうよ」
  「貴方にぴったりのお酒があるから、まあ良いか」
 萃香 「無色透明のお酒。李でも返すつもりだったんだろ。
     紫は変わったねぇ。最近はちょっと余裕っていうか」
  「場合によっては絞り取るつもりだったけどね。
    それにしても、なんて退屈そうな処なのかしら」
 萃香 「それがね、ここなら何でもかんでも見えてしまうのさ。
     あいつが地上にちょっかい出したくなるのも判んなくないな」
  「こんな場所から見下ろしてたら、ね」
 萃香 「ふふん」
  「……」
 萃香 「紫は変わってないねぇ」



むらさきの 色に心は あらねども 深くぞ人を 思ひそめつる
  (私の心は、紫草で染めた色でもないのに、
         人を思って深く染まってしまった)

                        ── 醍醐天皇