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早稲を饗すとも
「にほどりの かづしかわせの にへすとも
そのかなしきを とにたてめやも」
── 『万葉集』 14-3386
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霊夢 「……」
紫 「ごめんくださいな」
霊夢 「……」
紫 「贅沢な貴醸酒よ。滅多に手に入らないわ」
霊夢 「……絶対、開けないから」
紫 「酒は浄化よ。精進と潔斎は分けて考えることね」
霊夢 「……あんた、私が今何をしているのか、
当然知ってその扉を叩いてるんでしょ。
新嘗祭の潔斎よ。私だって巫女なんだから」
紫 「不浄な妖怪とは会えないわけね」
霊夢 「妖怪じゃなくても会えないの。
神様に接するときは清身を貫かないと駄目なんだから」
紫 「霊夢が見本のような巫女で、神様も驚いてるわ。
もしかしたら、この声の主が神様かもしれないわよ?
私を追い返したりしたら、末代まで呪っちゃおうかしら」
霊夢 「巫山戯ないの。あんたが神様なんて……。
大体、あんたなら隙間から勝手に入ってこれるでしょ」
紫 「ふふふ、たしかにこんな結界、いつでも破れるわ。
でもね、私は貴方が何をしているのか知ってるの。
一言、貴方の呪いがあれば気兼ねなく入れるのよ」
霊夢 「……」
紫 「贅沢な貴醸酒よ」
霊夢 「……私はいま斎戒中なの。
不浄なものを絶ち、神に捧げる清身を保っているの。
……だから、どんなものが結界に入ろうとも、
私は何も気付かない。私は何も見ていない」
紫 「そう、良い呪いよ。それでは遠慮なく」
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鳰鳥の 葛飾早稲を 饗すとも その愛しきを 外に立てめやも
(葛飾の早稲を神に捧げる日でも、
貴方が来たら戸を開けてしまうでしょう)
── 読み人しらず
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