Radical   Discovery 



  
山越えて海渡るとも


  「やまこえて うみわたるとも おもしろき
          いまきのうちは わすらゆましじ」

                       ── 『日本書紀』



  「思えば遠くまで来たものですね」
  「藍、貴方はここが遠い場所だと思っているの?」
  「もちろんです。月ですよ。
    地球から384,403kmも離れています。一瞬で来ちゃいましたが」
  「そう、一瞬で来ちゃったの。
    貴方が遠いと思っていた月に。一瞬で」
  「私はどうも、この場所が好きではありません……」
  「妖怪は、信じていました」
  「はい?」
  「ある人から託された希望を繋ぐため、月の地を踏んだのです」
  「ああ、例え話ですか。はい」
  「ある人は、あらゆる理想を月に浮かべていました。
    永遠の命。枯れない花。穢れなき世界。人間も妖怪もない。
    最大限の理想郷が、月にあったのです」
  「ここがですか?」
  「そう、ここがです。
    こんな無生命の月を、退廃した月を、
    死を恐れるがあまり、生きることさえ拒絶したこの世界を、
    あの子は最期まで理想郷だと思っていた」
  「……」
  「藍、よく見ておきなさい。
    これが月よ。私達が一瞬で辿り着いた理想郷」
  「……あの子とは、誰のことなんです?」
  「例え話です」



山越えて 海渡るとも おもしろき 今城の中は 忘らゆましじ
  (山を越え、海を渡っての旅は楽しいが、
     あの子ほど、私の心を晴らしてくれるものはなかった)

                             ── 斉明天皇