Radical   Discovery 



  
疑心暗鬼

                       ── 『列子』 説符

  「幽霊の、正体見たり枯れ尾花。
    心は本当に普遍的な存在なのかしら」




 天子 「地底にこんなお屋敷があるなんて」
 さとり 「……来客なんて珍しい。
     ……なるほど、迷い込んだだけのようね」
 天子 「おや、ここの主人かしら」
 さとり 「私はさとり、この地霊殿の主です。
     え?……お腹が空いた?
     何か用意でもしましょうか?」
 天子 「ん?」
 さとり 「どうして分かったのか?って?
     私に隠し事は一切出来ませんよ。何故なら、
     私には貴方の考えていることが全て分かってしまうからです」
 天子 「……」
 さとり 「何も考えないでみよう、と思っているのね。
     それも聞こえてしまうから、無駄ですよ」
 天子 「……」
 さとり 「喋らなくても意思疎通できるから、楽でしょう。
     地霊殿で会話は必要ありませんから、どうぞごゆるりと。
     地上での煩雑なコミュニケーションから解放された気分はどう?」
 天子 「……」
 さとり 「そう、何も答えないのね。
     でもその身振りで、居心地の悪さを感じるわ」
 天子 「……」
 さとり 「……身振りは心じゃない、って?」
 天子 「……」
 さとり 「何?……地震がどうしたの?」
 天子 「……」
 さとり 「……貴方、それは何?」
 天子 「……あー、疲れた!
     申し訳ないけど、私に地底は合いそうにないわね」
 さとり 「なるほどね。そう……心は言語、よ。
     私の眼は人の視覚的な幻像を視て、想起される言語を再生する。
     幻像を視ても、私の知る言語が伴わなければ、幻像しか判らない」
 天子 「……」
 さとり 「貴方を疑心暗鬼にさせたかった、って?
     もういいわ。この読み取りも、貴方の表層に過ぎないかもしれない」
 天子 「『日本語を話せ。ここは幻想郷だ』
     誰かさんの有名な言葉よ。ルール違反したのは私の方」
 さとり 「そう……貴方は私を嫌わないのね。
     それだけは信じることにするわ」



 ある男がマサカリを失くした。
 隣の家の息子が怪しいと思うと、その息子の言動全てが怪しく思えた。
 しかし、ある日谷底で偶然、失くしたマサカリを発見した。
 それからは、その息子の言動は全く怪しく映らなかった。

                          ── 『列子』 説符