Radical   Discovery 



  
覆水盆に返らず

                       ── 『拾遺記』

  「覆水盆に返らず。
    貴方が時を止めても、きっと誰も気付かない」




 天子 「夜の地上も素敵なものねー」
 咲夜 「不敵な天人だこと。さあ、帰った帰った」
 天子 「おっと、私は強敵だよ」
 咲夜 「標的はここね」
 天子 「そういえば、貴方は時を止めても、戻すことは出来ないらしいね」
 咲夜 「どうでしょうね。試してみる?」
 天子覆水盆に返らず。
      貴方は、カップからこぼれた紅茶を元に戻したり、
      割れたカップを元に戻したりは出来ないはずよ。
      これが何を意味しているか判るかしら?」
 咲夜 「……今日のおゆはんは葡萄のハム巻きね」
 天子 「そうやって、早巻きして何から逃げようとしているの?
      貴方というカップから、水がこぼれたことは無い?
      失った運命は、二度と戻ることは無いのよ。
      戻らずの水と書いて涙と読む。決して盆には返らない」
 咲夜 「私はそれさえも切り裂いて行ける。
      私の背には十五夜の月。月光を受けた私は十六夜の咲夜。
      貴方の時間も私のもの……古風な天人に、勝ち目は無い」

 咲夜 「うーん、強い……」
 天子 「振り返りはしないと言うのね。
      でも、満月という盆は、欠けても満ちる。
      この手品には、どんなタネが隠されているの?」
 咲夜 「タネも仕掛けも有りませんわ」
 天子 「取り替えるのね。ずるいなぁ」



 呂尚(太公望)は周に仕官する前、ある女と結婚したが、
仕事もせずに本ばかり読んでいたので離縁された。
 そんな呂尚が周から斉に封ぜられ、顕位に上ると
女は呂尚に復縁を申し出てきた。

 呂尚は盆の上に水の入った器を持ってきて、
器の水を床にこぼして言った。
「この水を盆の上に戻してみよ」
 女はやってみたが、当然出来なかった。
「一度こぼれた水は二度と盆の上に戻る事は無い。
私とお前との間も、元に戻る事は有り得ないのだ」

                    ── 『拾遺記』