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顧みて他を言う
── 『孟子』 梁恵王
「左右を顧みて他を言う。
その距離を隔てるは利己と窮策」
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天子 「こんにちは。油屋さん」
小町 「おやおや、地上くんだりまでご苦労な。死にたくなったのかい?」
天子 「私に、迷いがあるように見える?」
小町 「ああ、見えるねぇ。生きる轍か死の橋か、
お前さんの気質は、七色の気の迷い」
天子 「天に倣い地を治め、人の心を映し出す。
私に迷いなどあるもんですか。そう言う貴方は、どうなのよ」
小町 「気質を見れば良いことさ」
天子 「ああ、江戸っ子ね」
小町 「あたいに水は差せないよ」
天子 「その決断に宵越しの銭は無いと。じゃあ、聞こうじゃない。
もし、懇意にしていた人物の渡し賃が足りなかったら、どうする?」
小町 「もちろん、舟から落とすね」
天子 「ある行動を選んだことによって、寿命が来てしまう友人がいる。
貴方がお迎えの死神なら、忠告する?」
小町 「死神は天命に介入しない。命を頂くよ」
天子 「じゃあ、幽霊が河を渡らなくなったとしたら?」
小町 「……どこかに、幽霊を斬っている奴がいるんだ。
冥界のあいつとか、緋色の剣を持った奴とかね」
天子 「……顧みて他を言う。
幽霊が河を渡らなくなる原因は、貴方の怠惰にあるはずよ。
舟から突き落とし、命を貰い受ける貴方なら、
その問いには当然、『船頭を辞める』と答えなければならない。
自分の責任を逃れるために、他の話題を持ち出すのは良くないわ」
小町 「厳しいねぇ。 幽霊ともども、斬られてしまった」
天子 「その潔さもまた快なり。
迷いの川霧は、貴方の目と鎌によって切り払われるのね」
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孟子は斉の宣王に問いかけた。
「自分の妻子を友人に託して、楚の国に出張した者がいました。
彼が帰ってきたとき、妻子が飢えと寒さに泣いていたとしたら、
貴方はこの友人をどうなさいますか」
宣王は「追放する」と言った。
孟子は続けて問うた。
「ある役人が無能で、部下を統率出来なかったとしたら?」
宣王は「免職する」と、すぐに答えた。
そこで孟子は、こう尋ねた。
「では、お国が上手く治まっていないとしたら?」
宣王は左右の者を顧みて、別の話をし始めた。
── 『孟子』 梁恵王
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