|
和氏の璧
── 『韓非子』 和氏
「真実は常に認められぬもの。
お前に、世界を敵に回す覚悟はある?」
|
天子 「あはは、本当に記事にしちゃったんだ。
いやー、私も新聞に載るほど有名になるとはねぇ」
文 「いまに貴方に性格診断の依頼が殺到しますよ」
天子 「そういえば貴方の新聞、古道具屋が褒めてたわよ。
少女性があるだとか、真実を疑いたくなるだとか。
数ある天狗新聞の中では一番マシだって」
文 「それって褒めてるんですかね。
ともあれ、真実への探究心は誰にも負けませんから」
天子 「貴方の仕事は、事実から真実を作り出すことよね」
文 「さすが天人様。判ってらっしゃる。
起こり得た事実は動きませんが、真実は如何様にも動かせます。
万民の心に届く真実を作り出して、世直しするのが私の役目ですよ」
天子 「その意志、必ず貫きなさいね。
和氏の璧は、貫き通すことで本当の価値が認められたんだから。
いつか貴方の真実に共感してくれる人物が現れるでしょう」
文 「有難いお言葉ですが、和氏の璧といえば本当の宝玉じゃないですか。
私の場合、磨いてみるまで判らない石ころのようなものですよ」
天子 「貴方が信じないで誰が信じるのよ。
貴方が作った真実──私は気に入ってるよ。
緋想の剣で性格診断をするのは面白いかもねぇ」
文 「そうでしょうそうでしょう。
何なら連載も持ちませんか? 天声人語」
|
|
楚の和氏は、山中で玉の原石を見つけて脂、(れいおう)に献上した。
脂、が細工師に命じて玉を鑑定させると、細工師はこう言った。
「これはただの石です」
脂、は怒って、和氏を足切りの刑に処し、その右足を切った。
脂、が没し武王が即位すると、和氏は再び玉を献上した。
武王は細工師に命じて玉を鑑定させたが、結果は同じだった。
和氏は再び足切りの刑に処され、その左足を切られた。
和氏は原石を抱いてただ泣き続けた。
武王が没し、即位した文王が和氏の噂を聞いて彼に尋ねた。
「足切りの刑を受けた者は多い。お前はなぜ嘆いているのか」
「私は足切りの刑を受けたのが悲しいのではありません。
宝玉を石と言われ、嘘つきだと言われたのが悲しいのです」
文王は和氏の抱いていた原石を磨いた。
すると、その原石は紛れも無い宝玉であった。
この和氏の璧は、のちに十五城で交換したいと言う
王も現れるほどの天下の名宝として伝えられた。
── 『韓非子』 和氏
|
|