Radical   Discovery 



  
杞憂

                     ── 『列子』 天瑞

  「陰陽尽きる頃には誰もいない。
    貴方が思っているより世界は深い」




 咲夜 「ああ、心配だわ。自分」
 天子 「何が心配なの? 自分」
 咲夜 「お嬢様の服の替えを忘れてしまったの。自分」
 天子 「こんなところで酒を飲んでる暇は無いって感じね」
 咲夜 「暇はありませんが、時間は無限にありますわ。
      しかしどうしましょう。お嬢様にもしもの事があったら」
 天子 「瀟洒なメイドさん。それは杞憂というものよ。
      服の替えぐらい自分で見つけるし、自分の好きな服を着たいわ。
      貴方も少しは自由になってみることね」
 咲夜 「いいえ、心配ですわ。
      お嬢様がどんな服をお召しになるか判りませんし、
      うっかり帽子を忘れてしまうと大変な事になりますし」
 天子 「そこまで幼くないと思うけど……多分。
      そんなに心配して、まるで世界が終わるかのよう。
      貴方はもっと、自分のために生きなさい」
 咲夜 「私の世界は主の永遠。
      お嬢様に何かあっては、世界が終わったも同然です。
      それに……もう一つ心配事があるの」
 天子 「もう一つ」
 咲夜 「もう服の替えがありませんの。自分」
 天子 「時間は無限にあるのに、暇が無いのね。自分」



 杞の国の男が、いまに天と地が崩れたらどうしようかと
心配で心配で夜も眠れず、食べ物ものどを通さなかった。
見かねてある男が、
「天は気が積もって出来上がったのだから崩れる心配はない」
 と言ったが、男が今度は日や月や星が落ちてこないかと心配しだした。
「日も月も星も気で出来ていて、光っているだけだ。
たとえ落ちてきてぶつかっても、怪我などするわけがない」
 ここまで言うと、男はようやく安心して胸をなでおろした。

 天と地が崩れるというのも、崩れないというのも間違いだ。
誰にも判らないのだ。判らないことに気を使う必要はない。

                      ── 『列子』 天瑞