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古人の糟粕
── 『荘子』 天道
「お前の読んでいる物は古人の糟粕。
本当に大切な事は本には記されていない」
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天子 「何を読んでいるのかしら」
パチェ 「……誰?」
天子 「……私ってそんなにオーラ出てない?」
パチェ 「……やっぱり猫いらずは銀製に限るわね。
これは『ピカトリクス』、貴方は占星術にも通じているのかしら」
天子 「普通の人間程度にはね。私は陰陽道の方が好きだけど。
でも随分と古い本ね。それってアレでしょ? 古人の糟粕」
パチェ 「……残りかすだって料理の種になるわ」
天子 「あら、判ってるじゃない」
パチェ 「不言実行の天人には負けたくないから」
天子 「耳に痛いお言葉で。
酒かすは粕汁に。豆腐の残りかすはおからに。
糟粕にだって使い道はあるわ。
でも、種から生まれるものは限られている」
パチェ 「種と種を掛け合わせることは、知恵のある者にしか出来ない。
不出来な人間は糟粕を嘗めて、全てを知ったつもりでいる。
糟粕を肥料にして、土を耕すことを知らずにいる」
天子 「稽古照今。伊達に魔女やってないわね」
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斉の桓公が読書をしていると、
庭先で仕事をしていた車大工の輪扁が尋ねてきた。
「何を読まれているのですか」
「これは聖人が遺した書物だよ」
「そのお方は今も生きておいでですか」
「いや、とっくの昔に亡くなっているよ」
「すると、その本は昔の人のクソみたいなものですね」
桓公はきっと顔をあげて怒った。
「大工に何が判る。どのような理由があって私の読書を非難するか。
答えようによってはただではおかんぞ」
「私はただ、仕事の経験からそう思っただけです。
車の軸受けを上手く作るコツは、言葉では伝わりません。
せがれに何度も教えていますが、未だに上手くいかないのです。
昔の人も、肝心な事は言葉に表せないまま死んだのではないでしょうか。
すると、その本はやはり昔の人のクソみたいなものに違いありません」
── 『荘子』 天道
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