Radical   Discovery 



  
先ず隗より始めよ

                       ── 『戦国策』 燕策

  「魁をなすには、隗より始めよ。
    追い風は、自分で作り出すものよ」




 衣玖 「総領娘様、こんな処にいらしたのですね」
 天子 「……えーっと、貴方はたしか」
 衣玖 「衣玖です、永江の」
 天子 「ああ、龍宮の使いの。丁度良かった。
      龍宮の使いたちを組織的に動かせてみてはどうか、って
      天界で話が持ち上がっていたんだけど、貴方はどう思う?」
 衣玖 「組織的に、ですか?」
 天子 「貴方たちって基本的に単独行動でしょう。
      固まって行動すれば、空気の流れも良く読めるんじゃないかって。
      まあ、私は小耳に挟んだだけだから、別にどうでも良いんだけど」
 衣玖 「はあ。しかし、我々は互いの干渉を嫌っておりますし、
      各々が頑固で個性に満ちております故、一筋縄では行かぬかと。
      それでも取り纏めをされると言うのであれば、
      まずは、この凡庸な衣玖を用いられるのが良いかと思います」

 天子 「……先ず隗より始めよ、と」
 衣玖 「有能な人材を集めるためには、
      まず私のような、何処にでも居る者を優遇すべきです。
      そうすれば、私より優れた者が自ずから集まってくるでしょう」
 天子 「お前は、なかなか空気が読めるようだね」
 衣玖 「私は、そんじょそこらのチャラい天女のように、
      羽衣婚活なんぞに現を抜かしておりませんからね」



 燕の昭王は、かねてより優れた人材を求めていた。
その噂を聞いた食客の郭隗(カクカイ)は、昭王に次のような話を聞かせた。

 昔、良い馬を求める人がいて、使者に大金を与えて買いに行かせた。
ところが、使者は死んだ名馬を五百金で買ってきた。
主が怒ると、使者はこう言った。
「死んだ馬さえ大金で買う君主が居ると噂になれば、
生きた馬なら、もっと高く買ってくれると評判になるでしょう」
 果たして使者の言う通り、一年のうちに三頭の名馬が集まった。

 郭隗は続けて言う。
「もし貴方が本当に良い人材を求めているのなら、
まずは隗のような取り柄も無い人間を重用してください。
私のような者でさえ抜擢するという評判が立てば、
もっと優れた人間が、千里も厭わず駆けつけるでしょう」

                          ── 『戦国策』 燕策