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鳴かず飛ばず
── 『史記』 楚世家
「鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、不如帰。
無名の鳥は、鳴かなければ無名以下よ」
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天子 「これ、頂けるかしら」
霖之助 「ああ、すまない。それは非売品なんだ」
天子 「あら、それじゃあこれは?」
霖之助 「それも非売品だよ」
天子 「これも?」
霖之助 「もちろん」
天子 「ちょっと、一体どれが売り物なの?」
霖之助 「全部さ。でも、売るか売らないかは僕が決める。
それは今度使う予定だし、それは僕がまだ読んでないからね。
ましてや、それなんて僕の大切な宝物なんだから」
天子 「……貴方、それでも商売人?
博物館の看板でも立てた方が良いんじゃない?
そんな体たらくじゃ、鳴かず飛ばずで終わっちゃうわよ」
霖之助 「君も失礼な奴だな。僕はいつだって天下を狙っているさ。
たとえ三年鳴かない鳥がいようとも、ひとたび鳴けば世界に響く。
三年飛ばない鳥がいようとも、ひとたび飛べば天を貫く」
天子 「鳴かぬなら〜、ってね」
霖之助 「盗んだりするのは、やめてくれよ」
天子 「どこぞの魔法使いじゃあるまいし。
鳴かぬなら、飛ばない、よ。
鳴いてこそ、誰かに存在を知ってもらえるんだから。
そういうわけで、これ、頂いてもいいかしら」
霖之助 「いや、それは非売品だから」
天子 「……鳴くまで待つのも大変ね」
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楚の荘王は、即位して第一に、
「諌める者は死刑に処す」と布告して、
以後三年間、何の政務も行わず酒と女に明け暮れた。
これを見兼ねた臣下の伍挙は、死刑を恐れず荘王に問うた。
「丘の上に鳥がおります。
三年の間、飛びもしなければ鳴きもしません。
これはどのような鳥でしょうか」
荘王は両手に女を抱えたまま答えた。
「三年飛ばずとも、ひとたび飛べば天の果てまで飛ぶだろう。
三年鳴かずとも、ひとたび鳴けば天下を驚かすだろう」
続いて蘇従が荘王にまかり出た。
荘王が、布告を承知のうえかと問うたところ、蘇従は、
「我が君の迷いを覚ますことができるなら、この命など安いものです」
と言った。
このときを限りに、荘王は一切の遊びを止めた。
荘王は三年間、真の忠臣を見定めていたのである。
それから荘王は人事を一新し、伍挙と蘇従を重用し、
無能な旧臣を廃して国土を拡大、春秋五覇の一に登り詰めた。
── 『史記』 楚世家
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