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素封家
── 『史記』貸殖列伝
「名も無き者こそ歴史を彩る。
それを知る者が歴史を統べるのよ」
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天子 「もー、地上ったらどうしてこんなに食べ物が美味しいのかしらー。
もう天界の桃なんて食べてられないわー」
阿求 「粗茶ですが、気に入って頂けたようで良かったです。
それにしても、天人様ってもっとこう……」
天子 「ん?」
阿求 「いえ……何でもないです。
さて、記事の方ですが、何かご希望はありますか?」
天子 「ああ、『幻想郷縁起』ね。
私にも話が来るなんて、新聞の宣伝効果って凄いのねー。
貴方が見たまんまを書いてくれればそれで良いのよ」
阿求 「見たまんまを書くと大変な事になりそうですが」
天子 「ん?」
阿求 「いえ……何でもないです」
天子 「ちょっと見させてもらったけど、良く出来てるわね。
でも、増補版に『目撃報告例』が無いのはいただけないわ。
どうして里の人間の営為を削ってしまったの?」
阿求 「それは……列伝として相応しいかと迷ったからです。
そもそも、目撃報告例が少ない妖怪もいますし」
天子 「歴史には常に編纂者の作為が混じるものと心得よ。
『幻想郷縁起』にとっては、歴史を支える者たちの歴史こそが
人間が生きていくために必要な情報ではないの?」
阿求 「……たしかに。そう言われればその通りです。
おみそれしました。貴方ってもっとこう……」
天子 「ん?」
阿求 「いえ……何でもないです」
天子 「それはともかく、私の記事はうーんと良く書いてね。
内容によっては地震起こしちゃうから」
阿求 「貴方がよく判りません……」
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千万長者は一国の領主と肩を並べ、
億万長者は帝王と楽しみを同じくする。
かれらこそまさに「素封なる者(領土をもたない富豪)」ではないか。
『史記』は、無名の素封家こそが歴史を動かしたと考えた。
── 『史記』貸殖列伝
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