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泰山は土壌を譲らず

                    ── 『史記』 李斯列伝

  「衆庶を却けず、故に徳を明らかにす。
    孤高な人が得る土壌は、一握りに過ぎない」




 天子 「さて、これで堂々と入れるわー」
 美鈴 「あいたたた……さすが天人様ですね。
     ですが、負けたとて通すわけにはいきませんよ」
 天子 「そんな格好で何言ってるのよ。ほれほれ」
 美鈴 「いたた! もう許してください〜。
     はぁあ、私ってこんなことで良いのかしら……」
 天子 「あら、今さら気にしているのね」
 美鈴 「だって、私は紅魔館の門番なんですよ。
     お嬢様から大役を仰せ付かって日夜励んでいると言うのに、
     土が付いてばかり。挙句には泥棒にも入られて……」
 天子 「まあ、貴方は少々集中力に問題がありそうだけど……
     それはともかく、ここの主はそんなこと気にしちゃいないと思うわよ」
 美鈴 「どういうことですか?」

 天子泰山は土壌を譲らず。王者は何者でも受け入れる。
     異邦人である貴方が門番を勤めているのも、
     人間がメイドを勤めているのも、全ては主の大きな器ゆえ。
     まずは、貴方をここに置いてくれる悪魔に感謝しなさい」
 美鈴 「もちろんです。でも私は門番として──」
 天子 「だから、門番は頼りない貴方が最適なのよ。
     貴方が強かったら、誰も紅魔館に入れないじゃない」
 美鈴 「そう──ん? え?」
 天子 「私のような大河が、あいつの海に流れ込んでも良いかしら。
     あの月の海を模倣したぐらいだから、もちろんよね。
     悪魔の本が見れるなんて、楽しみだわ」
 美鈴 「貴方も泥棒じゃないですか〜」



 始皇帝に仕えた名宰相、李斯は楚の出身で、秦にとっては異国人だった。
 さて、あるとき韓から秦に来た異国人が灌漑用水を作ったが、
これは韓の策略で、秦の国力を消耗させる意図があった。
 そうとわかった秦の重臣たちは騒ぎ出し、他国者は全てスパイだと
王に奏上したうえで、李斯も追放該当者として訴えられてしまう。

 これに対して李斯は泰山を例にあげて反論した。
「泰山は小さな土も捨てないからこそ、あれだけの高さを保っている。
海はどんな細流も受け入れるからこそ、あれだけの水を湛えている。
王者もこれに同じ。どんな人間をも拒まないからこそ、
立派な政治を行うことが出来るのです」

 この言葉に心を動かされた始皇帝は、李斯を変わらず重用した。

                       ── 『史記』 李斯列伝