Radical   Discovery 



  
天を盗みて殃なし

                        ── 『列子』 天瑞

  「天を盗みて殃なし。
    貴方が盗んだのは、あいつの心?」




 魔理沙 「あいたたた……」
 天子 「あら、けちょんけちょんにされたのね」
 魔理沙 「ん……何だ、またお前か。ご覧の通り、こてんこてんだぜ。
       こいつの家には初めて来たけど、さすがに堅いな」
 天子 「へぇ、ここには日常的に盗みに入ってるもんだと思ってたわ」
 魔理沙 「まさか。誰が好んで、こんな奴の家に忍び込むかよ。
       あいつの警戒力は、針も通さないからな」
 天子 「おまけに糸も見えないと。
      でも、貴方はわざと、コテンパンにやられたんじゃない?
      彼女の頂門に、一針を通すために」
 魔理沙 「あー?」

 天子天を盗みて殃(わざわい)なし。
      盗みにも色々あって、天から盗む分には罪にならない。
      人はみな、穀物を、獣を、魚を食べるでしょう?
      誰だって、天から物を盗んで生きているのよ。
      そして今日、貴方が盗んだものは、天の時と地の利。
      彼女の家に忍び込む経路を探すために、貴方はあえて敗れた」
 魔理沙 「ばれてたか。急所さえ判れば、次からは堂々と入れるからな」
 天子 「でも、人が集めた物を盗むのは立派な罪。
      次に盗みを働いたときは、私だって許さないよ」
 魔理沙 「面倒な奴だなぁ。天の物とか人の物とか。
       いいか? 天は誰かの所有物じゃない。
       天は──天は、私のものだ」



 宋の向氏は大貧乏で、斉の国氏は大富豪であった。
ある日、向氏が国氏に金持ちの秘訣を聞いたところ、
国氏は「盗むことだ」と答えた。
 なるほど、と向氏は手当たり次第に盗みまくったが、
御用となって財産を全て没収されてしまった。

「なんてことを教えてくれたんだ」
 向氏は国氏に怒鳴りつけると、国氏は言った。
「君は盗むということを取り違えているね。
私が盗んだのは、天の時と地の利だ。
穀物を植え、獣を狩り、魚を取る──
どれも、天が作ったものを盗んでいる。
君は、人が作ったものを盗んだから罰を受けた。
天から盗むのなら罪にならないのだよ」

                       ── 『列子』 天瑞