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知音
── 『列子』 湯問
「善きかな、琴を鼓すること。
その言を心とし、ともに往きなさい」
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天子 「ん、これはたしか……」
弁々 「『霖雨』よ、この流れるような水の音、たまんないわねー」
天子 「そ、そうそう(誰だっけ?)」
弁々 「あんたも力を得たのかい?
でも、桃は道具じゃないし、石ころが力を持つなんておかしい」
天子 「ああ、噂の付喪神。残念だけど、私はそういう類じゃないわよ。
ということは、この音はやっぱり」
弁々 「あの子の音色なら、どこにいても判るわ」
天子 「仲良いわね。琴の音は私も毎日聴いているけど、
誰の演奏かなんて判別できた試しもないわ」
弁々 「判別する気なんてないくせに。
それはそうと、あんたは天人だな?」
天子 「そういう類よ」
弁々 「その剣、付喪神でしょ?
そいつに代わって、私があんたを倒してやるわ。
道具が虐げられる世はもう終わった!」
天子 「これは付喪神じゃ……ないと思うけど。
おや、音楽が……」
弁々 「あんな手ぬるい音楽じゃ、あんたを倒せないからね。
『崩山』を弾くなんて、判ってるじゃない」
天子 「なんだかまずそうな雰囲気」
弁々 「天人を倒せば、下克上にも箔がつくってね!」
天子 「ふん、『崩山』なんて粋な選曲ね。
私は大地を操る比那名居の天子。
姉妹ともども判らせてやる!」
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鍾子期の友人に、伯牙という琴の名人がいた。
伯牙が琴を弾くたびに、鍾子期は琴によせた伯牙の気持ちを言い当てた。
あるとき二人が旅行して暴風雨にあったときも、
伯牙は心細さから『霖雨』と『崩山』を弾いたが、
鍾子期はその心境を見事に言い当て、伯牙を感動させた。
「君は私の心だ。君の前では何も隠せはしない」
── 『列子』 湯問
鍾子期が死んだ。
「もはや私が琴をきかせるべき相手はこの世にいない」
伯牙は、絃を絶ち切り、それから二度と琴を手にしなかった。
── 『呂氏春秋』 孝行
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