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虎の威を借る狐

                       ── 『戦国策』 楚策

  「虎の威を借る狐と言えど、
    それが仙狐なら、どうなるのかしら」




 天子 「まさか貴方が幻想郷に来ちゃうなんてねぇ」
 神子 「君は……一体?」
 天子 「貴方でも、私を理解することは出来ない」
 神子 「おかしいな。君からは何も感じ取ることが出来ない。
      欲を持たない人間が、幻想郷に居るだなんて……」
 天子 「欲は不和を生み出すわ。
      でも貴方は欲を良く用いて、天下を平らげた。
      その本質は何にあったのかなって」
 神子 「和を以て貴しと為す。
      十の欲も、一つにすることで和が生まれる。
      欲を以て欲を制することで、天下は一つになるのです」
 天子 「それで、貴方は欲したのね。天下を統べる力を」
 神子 「欲が消え入ることは決してありません。
      月が欠けるように、大地に谷があるように、
      何かが満ちれば、そこに影が生まれるのですよ」

 天子 「貴方が利用したものは寅の威光。
      天下万民は貴方ではなく、寅を敬い、平伏したのよ。
      貴方はひょっとして、虎の威を借る狐だったのかしら」
 神子 「さあ、どうだろうね」
 天子 「でも、私は貴方を高く評価しているよ。
      貴方が天下で欲したものは無欲の極み。
      私たち、天上の者には判らない境地の一つ」
 神子 「君は天人だったのか。どうりで……。
      欲と無欲は紙一重。それを勘違いする者が多くてね」
 天子 「化かし合いねぇ。
      狐は、貴方一人じゃないかもね」



 楚の宣王は、群臣に尋ねた。
「将軍の昭奚恤(ショウケイジュツ)は、
北方の諸国から恐れられていると聞くが、
それは本当なのだろうか」
 この下問に、江乙(コウイツ)という臣下が答えた。
「虎はある日、狐を捕まえました。するとその狐は、
『俺は天帝の使いだ。俺を食えば天命に逆らうことになる。
嘘だと思うならついて来い。俺を見れば誰もが逃げ出す』
と言ったので、虎は半信半疑ながら狐について行きます。
すると狐の言う通り、獣はみな狐を見て逃げて行く。
虎は、狐を恐れて逃げたのだと勘違いしました」
「どういうことだ」
「狐は虎を騙して、難を逃れたのです。
獣が恐れているのは、狐ではなく、後ろにいる虎です。
諸国が恐れているのは昭奚恤の実力ではなく、
楚の王であり、楚の兵力そのものなのです」

 この江乙という者、実は魏の諜報であった。
彼は昭奚恤を失脚させようと、事あるごとに
宣王に悪口を吹き込んでいたのだ。

                       ── 『戦国策』 楚策