Radical   Discovery 



  
病膏肓に入る

                        ── 『春秋左氏伝』

  「膏肓にまで入り込んだ病は、
    血肉を蝕み、やがて心骨となるでしょう」




 天子 「何て、じめじめしたところなの……」
 ヤマメ 「おや、地底に遊びに来たのかい?」
 天子 「貴方は土蜘蛛ね?
      私、暇なのよね〜。遊んでくれるの?」
 ヤマメ 「お嬢さん、一発で見抜くとは流石だね。
       でも、そんな酔狂で地下まで降りて来ちゃいけないよ。
       ま、言われなくとも遊んであげるけどね。
       あんたは黒が好き? 赤が好き?」
 天子 「踊りもオシャレも、気分じゃないわ。
      チャンバラとかはどうかしら?」
 ヤマメ 「いいねぇ。その刀は、私を斬れるかな?」

 天子 「ばっさりとね」
 ヤマメ 「……あんた面白い奴だね。
       気に入ったよ、さあもっと地下にも行ってみな」
 天子 「なるほど、ここは蜘蛛の巣なのね。
      でも私は、こんなところには住みたくないなぁ」
 ヤマメ 「住めば都ってね。
       それに、ここなら厄介な連中もやって来ないのさ」
 天子 「膏(心臓)の上、肓(横隔膜)の下というわけね」
 ヤマメ 「そこまで逃げ込めば、どんな名医も手を施せない。
       ここの連中は、皆そんな奴らばかりさ」
 天子 「まさに病膏肓に入るね。
      とんでもないところに来ちゃったなぁ」
 ヤマメ 「さあさ、お祭りだ。ご案内しよう」



 晋の景公は、重い病にかかっていた。
彼は、秦に緩(カン)という名医が居ると聞いたので、
さっそく緩に往診を依頼することにした。

 景公は、医者を待っているうちに、ある夢を見た。
 二人の子どもが語り合っている。
「あれは名医だ。どこへ逃げたら良いものか」
「膏の上、肓の下のところまで逃げ込めば、
いかに名医とはいえ、どうにも出来まい」

 それから、往診に来た緩は、診察の結果こう言った。
「この病は、治療のしようがございません。
病の場所が膏の上、肓の下あたりですから、
針も届かず、薬も効かないでしょう」
 景公は、名医の診断に大いに納得し、厚く礼を取らせた。

                       ── 『春秋左氏伝』