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夜郎自大

                    ── 『史記』 西南夷列伝

  「私が歩けば大地が動く。
    世界の中心を決めるのはこの私よ」




 衣玖 「総領娘様、こんな処に居たのですか」
 天子 「あんたもしつこいね。私が何処に居ようと勝手でしょ」
 衣玖 「緋色の雲が現れましたので探していたのです」
 天子 「ああ、それなら心配ないよ。
     みんなが喜ぶようにするから」
 衣玖 「え?」
 天子 「最近は海を作るのが流行ってるそうじゃない。
     この霧の湖よりも広い海を作れば、きっとみんな驚くわよ」
 衣玖 「どういうことですか?」
 天子 「ちょうど河童が山を工事しているらしくてねぇ。
     そんなちまちまやらずに、私に任せれば一瞬よ」
 衣玖 「……地震を起こして天然ダムを作る気ですか?
     総領娘様、まだ懲りていらっしゃらないようですね」
 天子 「あんたの仕事は地震を人間に知らせることでしょう。
     早く里にでも行って、山に近づかないように言ってきなさい」
 衣玖 「ダム程度の海でいい気になるとは、
     幻想郷生活も長くなって外の海を忘れたようですね。
     ここは巫女にかわって私がお灸を据えてあげましょう」
 天子 「ふん、龍宮の使いが偉そうに。
     空も、海も、すべて私の手の内にある!」



漢の時代、南方に夜郎という国があった。
夜郎国は西南夷の少数民族がたてた国で、
西南夷には十近くの国があったが、夜郎国はそのなかでも最大の国だった。

漢の武帝は、それまで国交のなかった夜郎国に使者を遣わしたが、
夜郎国の王は使者に「わが国と漢は、どちらが大きいのか」と尋ねた。
夜郎国の王は、自らが大国の君主であると思い込んでいたのである。

                      ── 『史記』 西南夷列伝