霊夢：こんな湖に暴れるような妖怪がいたっけなぁ。
　わかさぎ姫：あなたは！　かの高名な巫女じゃありませんか。
　霊夢：おっと人魚？　なーんだ。雑魚じゃん。
　わかさぎ姫：そうやって相手にされなくなってから幾星霜。そろそろ私達（ようかい）が活躍する番よ！
　霊夢：人魚は大人しい妖怪だと思ってたんだけどねぇ。
　　　　やっぱり何か起きてるのかな。このお祓い棒の事も気になるしね。

　霊夢：こんな人里近くで妖怪騒ぎだって！？　これは本格的に異変が起こっているんだわ。
　赤蛮奇：早速現れたわね。私を退治しに来たというの？
　霊夢：探す手間が省けたわ。そっちから出て来てくれるなんて。さっさと片付けるわよ！
　赤蛮奇：……本当ね。大人しくしてたら人間が増長したって。
　霊夢：雑魚が粋がってるんじゃないわよ。
　赤蛮奇：……非力な人間の癖に。頭を見る度うなされよ！
　赤蛮奇：な、なによあんた。強いじゃないのよ。
　霊夢：妖怪退治は専門だもん。
　赤蛮奇：もしかして、あなたは……。
　霊夢：そうよ！　このお祓い棒が目に入らぬか！
　赤蛮奇：ははー、こりゃ失礼しましたー。

　影狼：私を退治しに来たのね？
　霊夢：何か……今日倒して来た妖怪って、みんな退治されたがっていたような。
　影狼：そう見えるのかしら？　ただ単にみんなちょっと嬉しいだけだと思うけど。
　霊夢：嬉しいだって！？
　影狼：妖怪退治の専門家だって謳っていてもさ、私達みたいな単独行動の妖怪は、いつも相手にされてなかったから。
　霊夢：だって……キリが無いじゃん。暴れてない奴まで相手にしてられないわ。本当は問答無用に攻撃したいんだけど。
　影狼：ふふふ、じゃあ相手にして貰うには、暴れるしか無いわね。
　霊夢：暴れる妖怪には容赦しないわ！
　影狼：気の毒ねぇ、こんな満月の夜に……。
　霊夢：何の妖怪かと思ったら、狼女だったのね。
　影狼：あーあ、満月なのに負けちゃった。
　霊夢：所詮は獣ね。弾幕はパワーだけじゃ無くて頭も使わなきゃ。あーあ、お祓い棒が獣くさくなっちゃった。
　影狼：ひどいわー。こんな出たくも無い日に出て闘ったというのに。
　霊夢：出たくない日？　満月なのに？　狼女なのに？
　影狼：毛深くなるから……。
　霊夢：そ、そう。

　霊夢：この不気味な嵐は一体……。
　　　　こういう所に何らかの敵がいる！　私の経験上！
　弁々：みーつけた。私の相手になってくれそうな人。
　霊夢：ほら妖怪がいた。こうなりゃ何でも相手になるわよ。
　八橋：ちょっと待ってよ。そいつは私が先に見つけたのよ。後から来て横取りだなんて狡いわ。姉さん。
　弁々：良いじゃないの。それにさっきの戦いをみてたけど、あんたの手ぬるい音楽じゃあ無理よ。この付喪神使いを倒すのは。
　霊夢：付喪神使いだって！？　人を妖怪みたいに言わないの。私はあんたみたいな妖怪を退治する者よ。
　弁々：ふーん……てっきりお仲間だと思ったんだけどねぇ。
　八橋：まあいいや。こいつは姉さんに任せるわ。じゃあねー。
　霊夢：あ、ちょっ……。
　弁々：さあボサッとしてないで。何もかも逆さまな下克上のこの世界。最強の道具が誰なのか今ここで決めるわよ！
　弁々：うーん、まいったまいった。降参よー。
　霊夢：ちょっとちょっと、下克上の世界ってどういうこと？
　弁々：え？　だって……私みたいな道具もこんな力を得たのよ。
　　　　今まで大人しくしていたけど、これからは私達の時代だわ。
　霊夢：う、うーん。
　弁々：この嵐の中、貴方もあそこを目指してるんでしょ？
　霊夢：あそこ？
　弁々：空中に浮かぶ逆さ城……あそこから力が洩れているんだから。

　正邪：何だ？　お前は。ここはお前達のような人間が来る場所ではない。即刻立ち去れい！
　霊夢：はいそうですか……って立ち去る訳がないでしょ？　空中にこんなお城を建てて何考えているのよ。
　正邪：……ほう、そうかそのお祓い棒。自我を持っている様だな。そいつに導かれてやってきたって訳か。
　霊夢：何だって？
　正邪：困ったもんだ。アレの代償が大きすぎたか。すんなり世の中をひっくり返せないもんだなぁ。
　霊夢：あんた、もしかして……本当に下克上を企んで……。
　正邪：ふっふっふ、如何にも。これからは強者が力を失い、弱者がこの世を統べるのだ！
　霊夢：呆れたわ。そんな誰も得をしない事をする妖怪がいるなんて。
　正邪：誰も得をしない……だとぉ？　我ら力弱き者達が如何に虐げられていたか
　　　　お前達には判るまい……ならば、何もかもひっくり返る逆さ城で念願の挫折を味わうがいい！
　正邪：くう、なんてこった。時期尚早だったか。
　霊夢：そんなんで下克上するつもりだったの？　もっと強い妖怪だって沢山倒して来たわ。
　正邪：まだだ、まだ諦めないぞ！
　　　　我らの手に秘宝がある限り、いくらでも強くなれるのだ。……多少の代償に目を瞑れば。
　霊夢：あ、ちょっ！
　　　　……逃げたつもりなのかぁ。口だけの妖怪の行動って、むしろ案内しているようなものね。

　霊夢：すっかり夜が明けたみたいね。もう闘いのお膳立ては整ったわ。
　　　　さあ出てきなさい！　幻想郷の平穏を破る者よ！
　針妙丸：だーれ？　あら博麗神社の巫女じゃない。
　　　　　あれ……そのお祓い棒は、秘宝の力を得ているみたいね。という事は私の味方をしに来たのかしら？
　霊夢：ああん？　誰が味方だって？
　針妙丸：嬉しいわー！　巫女が後ろ盾になってくれるなら、簡単に幻想郷をひっくり返せるわ。
　霊夢：やっぱり下克上を企んでいるのね？　私がそんな話に乗るわけが無いでしょ？
　針妙丸：もの言わぬ道具は朽ちるまでこき使われる。動く事も考える事も許されず……。
　　　　　日頃から感謝だの壊れたから供養だの、そんな事言って満足しているのは使用者（つよきもの）だけよ！
　霊夢：うーん？
　針妙丸：どう？　貴方の道具は今の方が嬉しそうでしょ？　喜んで使っている貴方に訊くまでも無かったわね。
　霊夢：それはその……えーっと。
　針妙丸：さあ私と一緒に道具（よわきもの）が笑って過ごせる世界を創りましょ！
　霊夢：だけど！　私は下克上の味方なんかする訳にいかないわ！
　針妙丸：貴方の様な生まれつきの強者は、力を得る喜びを知らないのね。
　　　　　しかしそのお祓い棒を見れば、心に迷いを感じている事も窺える。
　　　　　私の手には夢幻の力がある。それが秘宝「打ち出の小槌（こづち）」！
　霊夢：打ち出の……小槌だって！？　もしかしてその手にあるのは……。
　針妙丸：私には貴方が弱者を理解し、私の味方になる未来が見える。
　　　　　さあ、秘宝（こづち）よ！　もの言わぬ道具に夢幻の力を与え給え！

　弁々：悪いけどここで足止めさせてもらうよ。
　八橋：鎮魂ライブの始まり始まりー！
　霊夢：さっきの楽器の付喪神が絡んでいるとすると、やっぱり付喪神なのかな？　楽器なのかな？
　雷鼓：ようやく来たわね。博麗神社の巫女よ。今頃来ても、もう遅いけどね。
　霊夢：やっぱり楽器の付喪神ねー。ようやく勘を取り戻せてきたわ。
　　　　でも残念ね。打ち出の小槌は回収期に入ったから、あんたもすぐに普通の道具に戻るわよ。
　雷鼓：あら巫女ともあろう者がなんて勘の鈍い事を……もう小槌の魔力を失っても、ただの道具には戻らないわ。
　霊夢：え？
　雷鼓：打ち出の小槌の魔力が力の源だと私はすぐに気が付いたの。そのまま享受していては真の自立とは言えない。
　　　　だから考えた。打ち出の小槌の魔力を捨て、別の魔力を取り込む呪法……それを教えたのよ。付喪神のみんなに。
　霊夢：別の魔力を取り込む呪法だって？　たかが道具にそんな知恵が……。
　雷鼓：あらあら、道具の方がよく知っててよ。何故なら道具は全て使用者の魔力で動いているんだからね。
　　　　さあ試すとするか、私の新しい魔力を。
　　　　さあ外の世界の使役者（ドラマー）よ！　幻想郷に始原のビートを響かせよ！
　雷鼓：あらららら。降参よー。
　霊夢：道具の割には中々やるじゃない。でも一人前の妖怪まではまだまだね。
　雷鼓：外の世界の魔力だけでは敵わないのか……。
　　　　でもまあいいや。十分戦えることが判ったし。
　霊夢：それにしても別の魔力を取り込む呪法……かぁ。
　　　　付喪神がそんな悪知恵を働かせるなんて思わなかったわ。
　雷鼓：誰だって自分が生き残るのには努力を惜しまないでしょ？　それは悪知恵でも何でもないわ。
　霊夢：ところでどういう物なの？　その呪法。
　雷鼓：小槌の魔力の様に勝手に入り込むのは例外だけど……
　　　　本来、道具の魔力は使用者の魔力なの。使ってくれる人で魔力が変わる。
　　　　だから私は外の世界から流れてきた太鼓を取り込んだのよ。
　　　　外の世界にいる魔法使い（ドラマー）の魔力が私の心を満たす。それが呪法よ。
　霊夢：ふーん、よく判らないけど何か便利そうね。
　　　　何にしても大人しくしていれば私は……道具には攻撃しない事にしたわ。
　雷鼓：あら有難うございます。私も巫女（あなた）には逆らいません。
　霊夢：他の妖怪がどう動くかまでは約束できないけどね。