天子:なんだか、面白そうなことやってるじゃない。
鈴仙:あ、天人様……そんな自分の家のようにうろついて。
みんなに見つからないうちに出て行った方が、身の為ですよ。
天子:貴方に見つかったら、もう出られないわね。
鈴仙:判ってるじゃない。
でも、今日は貴方に用があるかもしれない。
天子:……この、烏合の衆を何とかしたいのね。
鈴仙:烏合じゃなくて、卯合よ。目が赤いでしょ?
天子:まあ、黒くはないわね。
鈴仙:実は姫様の要望で、例月祭の合唱団を組んだんだけど、
どれだけ歌の練習をしても、いまいちなのよねぇ。
でも、何が悪いのかが良く判らないの。
詩歌に明るい貴方なら、原因が何か判るかと思って。
天子:まあ、暗くはないけど……そうねぇ。
一つ言うなら、一聴せざれば愚知分かれず。
一人一人に聴かなければ、有能か無能かの判断は出来ない。
集団での行為は、たとえるなら神輿を担ぐようなもので、
そこに必ず、「担ぐポーズをする者」が居るはずよ。
鈴仙:つまり……?
天子:集団の評価こそ、個々に取らなければならない。
貴方たち兎の合唱団に必要なものは、個々の能力。
試しに合唱では無く、一人一人順番に歌わせてみればどう?
果たして何人が、逃げ出すのかしらねぇ
鈴仙:たしかにそうね……ありがとう、一度やってみるわ。
天子:頑張ってね。
鈴仙:……さてさて、貴方への用事は、もう一つあるのよね。
天子:おっと、目が真っ赤よ。
鈴仙:烏は貴方。その目が黒いうちに、言い残すことはある?
天子:聴いてあげましょう、貴方の歌を。今に愚知が判るはず。
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