Radical Discovery - 比那名居天子の故事名言 - 迂直の計










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迂直の計

                   ── 『孫子』 軍争篇

  「後れて発し、先んじて至る。
    愚直な行軍は、最も遠き道と心得よ」



 天子:あーあ、楽しそうだなー。
    ちょっとちょっと、そこの貴方。
 衣玖:……あ、私ですか?
 天子:そうよ、貴方。貴方もアレ、何か判るでしょ?
    ほら、あそこに飛んでる星みたいなアレ。
    アレってやっぱり、噂のロケットよね?
 衣玖:そのようですね。地上の吸血鬼が作ったそうです。
    何でもアレで、月へ戦争しに行くんだとか。
 天子:くーっ、羨ましい!
    異変も異変、大異変じゃない!
    地上では今ごろ大騒ぎになってるんだろうなぁ……。
 衣玖:総領娘様……?
 天子:妬ましい、妬ましいわ。
    私だって、沢山の人をあっと驚かせるような事をしてみたい。
 衣玖:総領娘様、落ち着いてください。
 天子:安心して、冗談よ。でも、アレ。
    話題性はたっぷりだけど、吸血鬼は負けるわね。
 衣玖:え?
 天子:ロケットの建設は昼夜突貫、燃料は加持祈祷による現地調達。
    発散も侭ならない狭い密室……劣悪な環境の中での行軍。
    こんな状態で月へ行って、士気なんて有ったもんじゃないわ。
 衣玖:たしかに、遠征は不利ですよね。
 天子:用意は簡単……でも、そこから先が難しいの。
    私には、その吸血鬼が本気とは思えない。
    単なる遊びか、広告塔……。騙されたか、騙されたフリ。
    迂直の計を弁えた黒幕が別に居るんじゃない?
 衣玖:迂直の計?
 天子:敵に遅れて出発し、敵を安心させ、敵より先に到着する。
    決して、最短距離が近道だとは限らないの。
    遠回りが一番の近道になることだってあるのよ。
 衣玖:なんだか難しいのですね。
 天子:何にしても、楽しみだわ。
    月の裏側だって、実は手の届く場所にあるかもしれない。
    うん……それにしても羨ましいなぁ……。




迂を以て直と為し、患を以て利と為す。
遠回りがかえって近道になり、短所が逆に長所になる。
これが戦争の難しさであり、これを知る者は
「迂直の計」で以て戦争を有利に進めることが出来る。

即ち、一見遠回りをして敵に有利だと思わせ、
人に遅れて出発しながらも、人に先んじて到着することである。

                          ── 『孫子』 軍争篇