永夜抄 - 西行寺幽々子+魂魄妖夢 Stage... 1 2 3 4 5 6A 6B Ex
Stage 1 蛍火の行方
蛍の灯りはいつもより激しく見えたのは気の所為か。
今宵は永い夜になるだろう。
妖夢:さあ、出て来い! そこに隠れる闇に蠢くものよ。
幽々子:妖夢、おいてかないでよー……。
妖夢:何言ってるんですか、夜は短いのですよ!
早く敵を見つけて斬り潰すのです。
幽々子:いや、そうじゃなくて……。
リグル:斬り潰すって……。斬るか潰すかどっちかにしてよ!
妖夢:さぁ、斬られる前か潰される前に、どこに行けば良いのか言いなさい!
幽々子:妖夢のそれは、夜明けのテンションよ。
おいてかないで、って言ったじゃない。まだ夜は始まったばっかよ。
リグル:なんなのよ、こいつら。
幽々子:あれ? 目の前に大きな蛍が居るわよ。
妖夢:気付いて無かったのですか……。
幽々子:蛍見も良いわね。妖夢、寄り道していかない?
妖夢:今のどこにそんな時間があるのです! 虫なんてこの楼観剣で……。
リグル:そうやって話している時間が一番長い!
蛍様が出て喜ばない奴なんて、久しぶりに見たよ!
妖夢:幽々子さまは、狙いを定めないから敵を討つのに時間がかかるのです。
幽々子:あら、急がば回れ、って言葉知ってる?
妖夢:あぁ、急いでるんでしたね。結局、次はどこに行けば良いのでしょうか?
幽々子:どう? この枝が倒れた方に進んでみない?
妖夢:そんなんでいいんですか……って、そんなに傾けてたら、手を放す前に倒れる向きが決まっていますよ。
幽々子:くるくるくる〜、っと。
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Stage 2 人間の消える道
人間の通り道も、真夜中に出歩くものは獣か妖怪位。
少なくとも人の姿が見える筈も無い。
ミスティア:ちょ、ちょっと待って〜!
妖夢:あんた邪魔だって。
ミスティア:あなた達には私の歌声が届かないのかしら? もしかして人間じゃ無いの?
幽々子:夜だというのに、雀の鳴き声がするわ。妖夢。
妖夢:幽々子さま。この鳴き声に惑わされないで下さい。これは夜雀の鳴き声。最も不吉な音です。
ミスティア:不吉なんて失礼ね。それに、幽霊が出る音よりはなんぼかマシでしょ?
幽々子:ええそうねぇ、比べ物になりませんわ。
妖夢:否定して下さいよ〜。
幽々子:妖夢ほら、鳴き声がまた強くなってきたわ。何処から聞こえてるのかしら。
ミスティア:ああもう、人間でも人間だった奴でもいいや。これから、楽しい妖怪祭りが始まるよ。
幽々子:さぁ妖夢、先を急ぎましょうか。
妖夢:え? えぇ、そうですね。そうですけど。
それにはまず、目の前の鳥を落とさないと。
幽々子:雀は小骨が多くて嫌いなの。
ミスティア:通すもんか!
妖夢:夜雀が出たって事は、じきに妖怪か何かが集まってきます。
その前にここを去りましょう。先を急ぎますよ。
幽々子:ちょっと待って。小骨が……。
妖夢:さっき、嫌いって言ってたじゃないですか。
幽々子:妖夢、好き嫌いは良くないわ。
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Stage 3 歴史喰いの懐郷
一車道の先には人間達が住む小さな里がある。
だが里があるはずの場所には、何も、無かった。
慧音:お前達か。こんな真夜中に里を襲おうとする奴は。
幽々子:あれ? 変な所に迷い込んでしまったわ。
妖夢:ここは何処でしょう……?
慧音:迷子の振りをしても無駄だ。不吉な亡霊達よ。
慧音:くそ! 亡霊がなんで。
幽々子:酷いわね。亡霊を人外扱いして。
慧音:こんな所まで何の用だ?
幽々子:さっき、攻撃してきたでしょ? そのお返し、よ。
慧音:ここには何も無い。さっさと通り過ぎるが良い。
妖夢:といっても、実は目的地が分かっていないので……。
慧音:当ても無くふらふらしているのか?
幽々子:いやいや、妖夢。ちゃんと目的地に向っているわ。
あなたは私の言う通りにすればいいのよ。
慧音:お前達の目的とは何だ?
妖夢:この異常な月を元に戻す事。
幽々子:いやいや、妖夢。
妖夢:!?
幽々子:素敵でお腹いっぱいな夜の観光旅行。
慧音:なんだか物凄く怪しい奴等だな。ただでさえ幽霊は怪しいのに。
妖夢:まて、それは聞き捨てならないな。幽霊は怪しくない。
幽々子:いやいや。
妖夢:うるさい。
慧音:……やはり、お前達は危険そうだな。
ここから追い出すしか無さそうだ。よく分からん奴らだが。
幽々子:ねぇねぇ妖夢。今日は、虫、鳥、と来て次は獣よ。
妖夢:何が言いたいのですか。
慧音:ふん、お前達の歴史は全て頂く! お前達が幽霊になる前も、全てだ。
幽々子:次は龍かしらね。
妖夢:幽々子さま。次の事考える前に目の前の事を考えてください。
妖夢:獣、って人間を獣扱いしないで下さいよ。
幽々子:いやいや、妖夢。この娘は今は人間の姿をしているけど、半分獣よ。あなたみたいね。
もっとも、人間も獣だと思うので足して2半獣かな?
慧音:くそ、月が不完全じゃなければこんな幽霊なんかに……。
妖夢:そうそうそう。満月を取り戻さないといけないんでした。
幽々子:さぁ、次は龍料理ね。楽しみだわ。妖夢。
妖夢:幽々子さま、目的地は分かっているって言ってましたよね? なんか不安になってきましたよ。
幽々子:でも、龍は鱗が多そうね。
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Stage 4 powerful 魔力を含む土の下
力強い竹の下には、さらに力強い根が張り巡らされている。
表面しか見れないのは愚かな人間と妖怪だけだ。
魔理沙:動くと撃つ!
間違えた。撃つと動くだ。私が動く。
妖夢:何? こんなところで遭うなんて珍しい。
魔理沙:さぁな。私はいつも通り、迷惑な妖怪を退治しているだけだぜ。
妖夢:迷惑って、誰がこんなことしたか知ってるの?
幽々子:だからー、普通は判るわ。
魔理沙:そりゃ判るぜ。こんな所に妖気集めた奴が飛んでいればな。
明日は待ちにまったお月見の日だ。今日の月なんてもう見飽きたぜ。
幽々子:あら、判って無さそうね。夜を止めているのは私達。
魔理沙:お前達だろ? だからやっつけに来たんじゃないか。
妖夢:そこの黒いの。後ろの歪な月を見て何も感じないのか?
魔理沙:もう見飽きたって言っただろ?
妖夢:現実に目を背けるな。こうしている間にもあの歪な月は沈む。
放っておけば大変な事になるのが判らんのか?
魔理沙:あー? 夜が終らない方が大変だぜ。
竹だって、一日が終らなければ永遠に成長するかも知れない。それこそ月まで、でもな。
幽々子:出る杭は打たれるの。あれ? 打つと動くんだったっけ?
魔理沙:ああ、動くぜ。夜が明けるまで動いてやるぜ。
妖夢:幽々子さま、逃げましたよ。追いますか?
幽々子:困ったわね。私達もあっちに向ってるんだけど……。
魔理沙:撃ったから動いた。さぁ、これからが本番だぜ。
妖夢:まだやるのか? もう勝負あっただろう?
魔理沙:ふん。そっちが二人なら、こっちは二回だ!
妖夢:とんだ無駄な時間を過ごしてしまった。
幽々子:幽霊に無駄な時間なんて無いの。全ては筋書き通り。
魔理沙:くそ。一体、何だと言うんだ?
幽々子:一瞬も全て。全ても一瞬。あなたと遊んでいる時間も必然よ。
妖夢:あれ? 竹林の奥に大きな屋敷が見えます。
幽々子:妖夢。判らない方がおかしいって言ってたでしょ?
そこに居るわよ。探していた龍料理が。
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Stage 5 穢き世の美しき檻
「穢き所に、いかでか久しくおはせん。」
そういうと閉ざされた扉は一枚残らず開き──
鈴仙:遅かったわね。全ての扉は封印したわ。もう、姫は連れ出せないでしょう?
妖夢:漸く見つかりましたね。犯人が。
幽々子:これは宇宙鳥。まだまだ、焦っちゃ駄目よ。
鈴仙:何だ、幽霊か。焦らせないでよ、もう。
用が無いなら帰ってよ。今取り込み中なの。
妖夢:そうはいかない。この月の異変は、お前がやったのだろう?
そうなら斬る。違うのなら斬って先に進む。
鈴仙:月の異変? ああ、地上の密室の術の事?
幽々子:そうよ。これは物凄く迷惑な術だわ。
即刻やめてもらいます。妖夢、さぁ斬っておしまい。
妖夢:え、えぇ、行きますよ?
鈴仙:荒っぽい幽霊ね。少しは話を聞いてからでも良いじゃない。
永琳:あら、お迎えかと思ったら、幽霊?
まぁ、お迎えが来れる筈が無いけど。
幽々子:妖夢、二人目よ。これも斬るのよ。
妖夢:え、えぇ? 行きます、の?
永琳:ほら、そんなに苛めちゃ可哀相じゃない。
月の件は、私の術よ。ただ、これも姫とこの娘の為。幽霊とはいえ、この位の優しさが無いといけないわ。
妖夢:お前が犯人か。それは斬る相手が一人減った。
永琳:うーん、でも焦っちゃ駄目。
ウドンゲ、ここはお前に任せたわ。 間違っても姫を連れ出されないようにね。
鈴仙:お任せください。斬られはしないけど、扉は一つも空かせません。
妖夢:(なんだ、幽々子さまと大差ないじゃないか)
幽々子:脳が逃げて、鳥が残る。妖夢、斬る相手が一人減ったわね。
妖夢:え? えぇ、斬りますってば。
鈴仙:ふふふ。月の事ばっかに気を取られて……。
既に私の罠に嵌っている事に気が付いていないのかしら?
妖夢:!?
鈴仙:貴方の方向は狂い始めている。もう真っ直ぐ飛んでいられない!
妖夢:そういえば、幽々子さま、なんであいつが鳥なんですか? 兎じゃぁ……。
幽々子:兎は、皮をはいで食べると、鳥になるの。覚えておきなさい。
鈴仙:嘘を教えるな。っつか、無視するな!
私の目を見ても、まだ正気で居られると思うなよ!
幽々子さまの言う通りに進む(FinalA)
妖夢:うう。目が廻る。なんだか気分が悪くなってきた……。
幽々子:あらあら、これだけ揺られたから、人間側が酔ったのね。
まぁ、安心しなさい。次は体に良い物が食べられるわよ。
鈴仙:なんていうこと。思ってたよりずっと強い……。
幽々子:次は薬膳よ。しかも最後なの。龍じゃないのが残念だけど。
妖夢:幽々子さま。なんか知っているんですか?
幽々子:全然。
幽々子さまの言う通りに進む(FinalB)
妖夢:うう。目が廻る。なんだか気分が悪くなってきた……。
幽々子:あらあら、これだけ揺られたから、人間側が酔ったのね。
あそこに見える扉の奥でちょっと休みましょうか。
鈴仙:ああ、しまった。まだ封印が間に合ってない扉があったのか。
妖夢:大丈夫、ですよ。先を急ぎましょう。さっきのを追いますよ。
幽々子:いいの。空いている扉は入れる扉。きっとそこには最後の料理が待っているわ。
まぁ、休憩にはならないかもしれないけどね。
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Final A 姫を隠す夜空の珠
永い永い廊下。この廊下は何者かが見せる狂像か。
近すぎる月の記憶は、妖怪には懐かしく、薄い物だった。
永琳:ふふふ。無事ついて来てるようね。
幽々子:追いついた。もう逃さないわよ。
妖夢:ええ、逃しませんとも。
妖夢:えぇーと。何処にいった?
永琳:ここ、ここ。さすが半人前ね。こんな短時間で見失うなんて。
幽々子:何やってるのよ。その大きな半幽霊は何の為についているの?
妖夢:尾行の為じゃ無いですよ。
永琳:まぁ、ここは私が作った偽の通路。貴方達が見失うのも無理は無いわ。
妖夢:偽の通路?
幽々子:偽の月に偽の星空。ほんと、手の込んだ事をしたものね。
永琳:あら、よく分かったわね。あの月が幻影だって。
幽々子:大昔の月よ、あれは。月がまだ天上にあった頃の月。
妖夢:昔ですか?
幽々子:古臭い、黴の生えた月。今の月には兎はいないものねぇ。
永琳:あいにく、今でも兎はいるわ。月の民も兎も、月の裏でひっそりと暮らしているよ。
結界を張ってひっそりと……。そう、幻想郷の様にね。
妖夢:月の幻想郷?
永琳:そしてこの幻影の月は、月の記憶。古臭く見えるのはその為よ。
妖夢:で、そんな黴臭い月を持ち出して何をしようとしてたの?
永琳:用事ならもう済んでいるわ。満月は月と地上を結ぶ唯一の鍵。
これさえ無くせば、追手も月から地上にやって来れない。
今頃、偽の地上に辿りついているでしょう。そう、黴臭い地上に。
幽々子:あなたは、犯罪者なのね。
何かから逃げる者は罪を犯した者。身を隠そうとする者は罪を認めた者。
そして、罪を認めた犯罪者は言い訳を始めるわ。
妖夢:……。
永琳:いや別に。あんまりにもここが居心地が良かったから、月に帰りたくなかっただけよ。
安心していいわ。朝になれば満月は元に戻してあげるから。
妖夢:幽々子さま、私に何かご指示を。
幽々子:あら、今頃になって私の言ってたことが判ってきたのかしら。じゃぁ、まずは私の盾になりなさい。
妖夢:お任せください。冥界一硬い盾、ごらんに入れましょう。
幽々子:気が向いたら援護してあげるから。
永琳:あはははは。盾は外からの力を防ぐ力しか持たない。我ら月の民は内なる力に作用させる能力を持つの。
あなたが硬い盾になっている内に、中のやわらかい部分から腐っていく……。
そう、そっちの能天気なお嬢さんからね。硬い盾なんて無意味だわ。
幽々子:妖夢、安心して。ナマ物じゃないから腐らないわ。
妖夢:判ってますよ。最初から腐っていることぐらい。
でも、腐っていてもお守りするのが魂魄家の役割なんですよ。
幽々子:腐らないってば。
永琳:いつまでその余裕が持つかしらね。留処なく溢れる月の記憶。
これを浴びた地上人で狂わなかった人は居ない。
幽々子:仕様が無いわね。妖夢、狂わないようにこれだけは覚えておくのよ。
永琳:ああ、人じゃなくて幽霊ね。それじゃ腐らないか。
幽々子:腐りかけが一番美味しいの。
妖夢:今それを教えられても……。
永琳:言うわね。でも、発酵の能力は神の力。
貴方達亡霊は神も見捨てたって事よ!
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Final A 五つの難題
解決不能な五つの難題。
しかし、長い年月と幻想の力は、それらの問題を解くのに十分だった。
永琳:ああもう。こっちに来させちゃ駄目だって言ってるのに。
幽々子:妖夢。行くわよ。
妖夢:ええ、行きますとも。
妖夢:幽々子さま。見てください、凄い満月ですよ。
輝夜:これが本当の満月。貴方達は人間でも妖怪でもないみたいね。
何でこんな所に迷い込んできたのかしら。
幽々子:妖夢。あの月の顔を見るのは忌まわしい事よ。今すぐに見るのをやめなさい。
妖夢:え、えぇ、そうなのですか?
輝夜:本当の月は忌まわしいもの。地上人はその事を忘れて久しい。
貴方は懐かしい人ね。いや、人だった者かな?
幽々子:まだまだ人のつもりだけど。
でもね、この娘はまだ半分人なの。半分だけでもおかしくなったら困るわ。
妖夢:幽々子さま。月を見ないであいつを見るのは無理です!
幽々子:心の目で見るのよ。その大きな半幽霊は何の為に付いているの?
妖夢:心眼の為ではないですよ。
輝夜:楽しいわね。穢い人間でも妖怪でもない者か。見ていて気持ちのいい位、何にもないのね。
妖夢:幽々子さま、大変です。目を瞑ったら真っ暗です!
輝夜:少しくらいこの満月みて狂った方がいいんじゃない?
幽々子:見えなくても刀は物を斬れるでしょう?
輝夜:で、今日はどうしたの? 幽霊が何の用なの?
幽々子:珠はね、少しでも欠けると価値は無くなるの。それは、永遠に丸のままではいられないからよ。
でもね、その傷が付いた珠も、転がしているうちにまた珠に戻る。そういうことでしょう?
妖夢:あー、急に目を開けると眩しさに眼が眩む。
輝夜:そう、永遠とはそういうこと。ワビの世界よ。
実は私、永遠を操る事が出来るの。
幽々子:ってことは、今夜を止めていたのも貴方かしら?
妖夢:え? 幽々子さま、それはその……。
輝夜:そんな酷い事をするのは私じゃないわ。これは信じていいわよ。
幽々子:まぁ、どうでもいいわそんなこと。
私は、幻想郷に満月が戻ればそれでいいの。朝にはそのうちなるでしょうし。
妖夢:良く言いますね。
幽々子:妖夢、これは最後の命令よ。目の前の永遠を斬りなさい。
輝夜:あら、永遠は傷が付いても永遠よ。さっきそう言っていたでしょう?
妖夢:だから斬るんですよね! この白楼剣で!
幽々子:さっきはああ言ってたけど、夜を止めていたのはこいつの仕業よ、きっと。
妖夢:いや、それは違うと……。
輝夜:違うって言ってるでしょ? まぁいいわ。そんなに私と戦いたいのならやりましょう?
今まで、何人もの人間が敗れ去っていった五つの難題。貴方達に幾つ解けるかしら?
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Extra 蓬莱人形
満月の下の、草木も眠る丑三つ時。
人間と妖怪の肝試しは、いったい何を恐れる?
最大の大罪の犠牲者は、いったいどこに居る?
慧音:待っていたぞ。満月の夜にやってくるとはいい度胸だ。
妖夢:……肝試しでも、お前は怖くない!
慧音:あの人間には指一本触れさせない!
妖夢:急に……、攻撃が止んだ。こういうときが一番怖いです。
妹紅:一際異彩を放つ、幽霊の姿。こんな満月の下の草木も眠る丑三つ時。
幽霊は珍しくは無いけど、その確かな形、目立つわね。
妖夢:うわ、出た!
幽々子:妖夢、出たわよ。
妹紅:幽霊に、出た、言われてもねぇ。
幽々子:……。
妖夢:なんだ、人間か。間違って斬るところでしたよ。
って、こんな時間に人間? やっぱり不自然よ!
幽々子:……。
妹紅:私は最初からここに住んでいるの。
時間はともかく、貴方達よりは自然だわ。で、貴方達は何の用かしら。
妖夢:私達は肝試し──って、幽々子さま?
幽々子:妖夢、そいつに近づいてはいけない。
妖夢:幽々子さま……。
幽々子:そいつは、他の人間とは違う。
触れてはいけない。その呪いで穢れてしまう。
食してはいけない。その毒で呪われてしまう。
何より……、私の術が効かない。
妹紅:なんか、酷く嫌われてるようね。初対面なのに。
それに、いきなり術って、何をかけようとしたのかしら。
妖夢:幽々子さまは、人間を死なす事が出来る。それが効かないというのは──。
妹紅:いきなり取り殺そうとしたの? 物騒な幽霊ね。
妖夢:お前は人間ではないな? って、それじゃ幽々子さまが怯えている理由が判らないけど。
妹紅:あいにくだけど、人間よ。ただちょっと死なないだけ。
幽々子:蓬莱人……。怖いわ、妖夢。
妖夢:肝試しに来るまではあれほど平気だったのに……、何か変な物でも食べました?
まぁ、この場は私が何とかします。怖いもん無しの幽々子さまが、こんなに怯えるものがあるなんて思わなかった。
妹紅:幽霊と私では、相性が良くないのかな?
なんだか腹が立ってきたよ。もう攻撃開始しようかな〜。
妖夢:でも、何をそんなに怯えてるんですか? 幽々子さま。
幽々子:蓬莱の薬を飲んだ人間は不老不死になる。
その不老不死の人間の生き肝を食すと、その人も不老不死になる。その生き肝を亡霊が食すと……?
死ねない亡霊が生まれるわ。そして、蓬莱の輪廻は終る。成仏も転生も出来ないし、薬も続かない。
まぁ食べなければいいんだけどね。
妖夢:じゃあ食べるなー!
妹紅:全く、ふざけた幽霊達ね。もしかしたら、幽霊になるとこんなにおかしくなるのかしら?
死ねない私には確かめ様がないわね。
妖夢:心配した私が馬鹿でした。幽々子さまはやっぱり幽々子さまですね。
幽々子:食べるかもしれないよ〜。目の前の不老不死の生き肝、美味しそうね。
妖夢:幽々子さまの手の届かない処で始末します。
妹紅:果たして、死人が私を斬る事が出来るかしら?
妖夢:仲間を増やす事は出来ないかもしれないけど、本当に死なないのか試させてもらうよ。
妹紅:成仏を忘れた亡霊は新たな生を生まない。死ねない人間は色鮮やかな冥界を知らない。
生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に、死んで死の終わりに冥し。
死を知らない私は闇を超越する。暗い輪廻から解き放たれた美しい弾幕を見よ!
妹紅:なんてこと! もう体力の限界が……。
妖夢:不老不死でも体力には限りがあるのですね。
幽々子:さぁ、相手の動きが鈍くなってきたわ。今よ!
妖夢:何の今ですか! 食べないんでしょ!
妹紅:死ねなくても、闘い続ける事は出来ないわ。体のあちこちが痛い。
幽々子:亡霊はいいわよ。体は痛まないし。貴方もどう? 亡霊は。
妹紅:人の話聞いてました?
妖夢:死なない人間は面白いですね。力一杯闘ってもいいという安心感があって。
幽々子:あら、貴方いつも手を抜いているのかしら?
妖夢:いえ、滅相も無いです。
妹紅:それにしても、強い。何でそんなに強いのよ。みんな私より年下でしょう?
幽々子:人間には強さの限界があるからに決まってるじゃない。貴方は、いくら頑張っても幽霊に勝てない。
妖夢:幽霊はあんまり関係無いと思いますが、むしろこっちは二人で闘ってい……
幽々子:あら、目の前に不老不死の生き肝が。珍しいわね。
妖夢:幽々子さま〜。
妹紅:しょうがない。もう痛くて動けないし、煮るなり焼くなり好きにしな!
幽々子:煮ても焼いても駄目よ! 肝は、生で食すのよ。煮ても焼いても蓬莱の効力は無くなるわ。
妖夢:じゃあ、焼きましょう。
妹紅:焼かれても死なないけどね。ちょっと熱いだけ……、しくしく。
妖夢:ところで、何でこんなことになったんだったっけ?
幽々子:貴方が肝試しに行く嵌めになったって誘ったんじゃないの。
妖夢:ああ、それでですか。だからさっきから生き肝、生き肝、言ってたんですか。
肝試しは途中で中止です。輝夜に騙されたのが判ったから。
輝夜は明らかに、この人間と戦わせたがっていたんですよ。肝試しなんて嘘もいいところ。
幽々子:中止? 中断でしょ? 肝試しはこれから再開するわよ。
妖夢:えー……。実は私、怖い物苦手なんですよぉ。
幽々子:ほらあそこの竹の下に幽霊が……。
妖夢:ひえぇぇぇ。
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