妖夢：報告通りだわ。次々と動物霊達が三途の河を渡ってきている……！
　瓔花：そこのお前！
　　　　こんなところで暴れるから積み石がみんな崩れちゃったよ。
　妖夢：積み石？　全部崩したわ。　何か貰えるの？
　瓔花：酷い、酷いわー。積み石は子供達の大切な作品なのにー！　私が仇を取ってやる！
　瓔花：ぐぐぐ……強い。
　妖夢：おっと、お前の座っている積み石を残していたわ。それを崩したらパーフェクト！
　瓔花：鬼すぎる。お前なんて地獄に落ちてしまえー。

　妖夢：死神の舟を使わなかったのは失敗だったかもしれないなぁ。
　潤美：はぐれた幽霊かと思ったら……生きているじゃないか。
　妖夢：貴方は……もしや牛鬼？
　　　　人間を襲うのを禁止されてから、三途の河で漁業を営んでいると聞いたけど。
　潤美：そうさ、河は静かなもんさ。
　　　　お前みたいな襲撃しても怒られない人間が来ない限りはね！
　潤美：ぐぐぐ……思い出した。お前さん、冥界のいつも暢気な庭師じゃ……。
　妖夢：今はちょっと気が立っていてねぇ。地獄に行く前の良い準備運動になったわ。
　潤美：ほう、地獄に行くのか……。何が起こっているのか教えてくれないかねぇ。

　久侘歌：閻魔様から話は聞いています。容赦無く、貴方を試しなさいってね！
　久侘歌：地獄へ行こうとしているだけありますね。中々の腕前でございます。
　妖夢：あ、ニワタリ様ですね。私は冥界の使いです。地獄に行くつもりなので門を開けて下さい。
　久侘歌：私を知っているのですね。ならば話は早いです。
　　　　　地獄に耐えられるかどうかの試験はこれからです。
　妖夢：望むところです。刀の錆びにしてやりましょう。
　久侘歌：口先だけの輩なら地獄では通用しませんよ！
　久侘歌：お、お見事です。貴方なら地獄に行っても瞬殺されることはないでしょう。
　妖夢：大丈夫に決まってます。瞬殺される前に斬殺してみせるわ。
　久侘歌：随分な自信ですね。でもこれだけは忘れないで下さい。
　　　　　地獄の霊達は、心の隙間を狙ってきます。力を過信するとそこに付け込む霊が現れるかも知れません。
　　　　　冥府の使いである貴方に言う事では無いかも知れませんが……。

　八千慧：生身の人間ですね。地獄は絶望的に広いですよ。私が案内しましょう。
　八千慧：よく付いて来られたね。
　妖夢：はあはあ。やっぱり本物の業風は息が詰まるわ。まさに地獄。
　　　　ところで貴方は誰？　地獄の鬼では無さそうねぇ。
　八千慧：私は鬼傑組（きけつぐみ）の組長。吉弔八千慧である。お前こそ、名を名乗れ。
　妖夢：失礼しました。私は魂魄妖夢です。
　　　　地上侵略している動物霊の調査で、冥界の白玉楼から来ました。
　　　　鬼傑組というのは……失礼ですが聞いたことが無いのですが。
　八千慧：いえそんな筈がありません。貴方は知っている筈です。
　妖夢：え、あれ？　そういえば聞いたことある気がしてきた……。
　八千慧：それに、貴方が探している動物霊が、地獄（ここ）にはいないことも知っている筈です。
　妖夢：そう、だったかも？
　八千慧：私が本当の敵の居場所を教えましょう。付いて来なさい！
　八千慧：素晴らしい腕前です。貴方のような人間なら大丈夫でしょう。
　　　　　では、倒すべき敵の下へ貴方を案内します。
　妖夢：あ、有難うございます…… 。
　　　　しかし、貴方は初めて会ったはずなのに、何故かそんな気がしないのですが……。
　八千慧：きっとそうでしょうね。しかし、貴方は動物霊の侵略を止めに来ただけの人間です。
　　　　　私が敵がいる場所を教えます。貴方の役目はその敵を倒す事だけですからね……。
　妖夢：私の、役目……。そうだった、敵を倒すことだったわ！
　八千慧：動物霊は地獄のお隣にある畜生界にいます。 
　　　　　その畜生界の中心に一際目立つ建造物があって、そこが敵の本拠地なのです。
　妖夢：敵は畜生界……。畜生界に行くのは初めてだけど、何だかワクワクしてきたわ。何でも叩き斬ってやる！
　八千慧：さすが心強いぞ！
　　　　　オオカミに選ばれし勁牙（けいが）の戦士よ！
　　　　　さあ行け！　呪い極めた鬼形（きぎょう）の敵を滅せよ！

　妖夢：畜生界は都会だって聞いてたけど、想像以上だったわ。
　　　　目の前に見える鍵穴みたいなのが目的地なのかなぁ。
　磨弓：人間？　さっさと霊長園に戻らないと、飢えた畜生達に捕らわれるよ。
　妖夢：霊長園？　そこの池に囲まれた森かしら？
　磨弓：霊長園を知らないだって？
　　　　と言うかお前……畜生界の人間霊じゃないな！　何者だ？
　妖夢：私は冥界の住人よ。動物霊達を退治しにやってきたの……。
　　　　……（えっ、身体が動かないわ！？　……まさかオオカミ霊の仕業！？）
　妖夢：ふっふっふ。私は、お前達を破壊する為だけに生身の人間を連れてきた！
　磨弓：貴様から感じる霊気……まさか、オオカミ霊なのか？
　　　　冥界の人間に頼るなんて、オオカミにそんな頭脳があるとは……。
　妖夢：この為だけに、あのにっくき鬼傑組の奴らと同盟を結んだのだ！
　　　　お前達、呪われし偶像どもから人間霊（えさ）を解放する！
　　　　覚悟しろ！　弱肉強食こそ、畜生界の理（ことわり）だ！
　磨弓：つ、強い！　畜生界の人間霊とは訳が違う……！　なんと恐ろしい策……！
　妖夢：（よし！　これならば勝てる！　ありがとう！　冥界の剣士よ！）
　妖夢……不覚、まさかこの私がオオカミ霊に乗っ取られるとは……。
　妖夢：（すまなかった。私だ、オオカミ霊だ。しかし貴方のお陰で霊長園に入る事が出来る。
　　　　あと少しだ……！　あと少しで畜生界は動物霊の支配に戻る。
　　　　そうすれば、地上への動物霊の侵攻も止まるだろう。
　　　　安心するがよい。貴方と目的は一致している）
　磨弓：これは埴輪兵士が作られてから初めての緊急事態だわ！　早くみんなに知らせないと！
　妖夢：話は判ったわ。さっきの奴のボスを倒せば良いんだよね。
　　　　刀が錆びる前に行こう。霊長園とやらに！

　磨弓：生身の人間がこんなに強い生き物だなんて！　夢のような現実だわ！
　妖夢：見たことも無い世界だわ。あの外見からは想像も付かない内部ね。
　　　　ここの何処かに敵がいるのよね？　オオカミ霊さん。
　妖夢：（……な、何だこれは！？　自然豊かだった霊長園が……。あいつ等、許さないぞ）
　袿姫：来客とは珍しい。もう私達に敵う者などいないと悲しんでいたのに……。
　妖夢：ついに見つけたぞ！　畜生の理を破りし破壊神！　埴安神桂姫！
　　　　お前の偶像を破壊する為に、生身の人間を連れてきたぞ！
　袿姫：生身の人間だって！？　そんな馬鹿な話……誰が信じるもんですか。
　妖夢：すみません、生身の人間です……。でも半分は幽霊なのですが。
　袿姫：冥界から、だって？　これはまた遠いところからわざわざ。
　　　　何か秘策でもあるのかしら？　オオカミ霊さん。
　妖夢：……。
　袿姫：貴方、噛みつくしか能の無い勁牙組（けいがぐみ）のオオカミでしょ？
　妖夢：……なぜ判った。
　袿姫：ふっふっふ。冥界の住人よ。動物霊に騙されるな。
　妖夢：えっ？
　袿姫：私は畜生どもから人間霊を守る造形神（イドラデウス）よ。
　　　　動物霊達は霊長園を奪う為にお前を騙している。
　妖夢：え？　何だって？
　妖夢：騙されるな、冥界の剣士よ。こいつは自然の摂理を破壊する邪神だ！
　　　　こいつは動物の敵であり、人間の敵だ！
　妖夢：や、やっぱりそうよねぇ。ここまで来たら動物霊を信じないとおかしくなっちゃう。
　袿姫：オオカミが本当のことを言っていると思う？
　妖夢：そ、そりゃそうね。オオカミ霊！　もう騙されないぞ。
　妖夢：この優柔不断ヤロー！　あいつが敵だー！
　袿姫：ほんと、優柔不断なのは損よねぇ。一生後悔するわ……。
　妖夢：（し、しまった！　時間稼ぎされてたぞ、人間！　こいつの造形術が来る！
　　　　動物霊達（われわれ）は、皆これにやられたんだ！）
　　　　一旦退却だ！　逃げろ！
　袿姫：冥界から人間を連れてきておいて敵前逃亡とは……！
　　　　失望したぞ。畜生は所詮、畜生だな。
　　　　肉のお前を滅して、土と水で美しく造り直してやる！ 
　　　　半分幽霊、半分埴輪なんて、孤高の偶像（アイドル）になるぞ！
　妖夢：人間よ、よく耐えた！　まもなく応援が来るぞ！ 
　　　　もうこっちが強者だ！　孤独な邪神にトドメを刺せ！

　久侘歌：この先、最強の動物霊が占拠しています。
　　　　　現在、地上に攻めてこないように水際作戦決行中です！　今すぐ引き返してください！
　妖夢：地獄の水際作戦、初めて見たわ。相当ヤバイ奴が出てくるんじゃ……。
　妖夢：（……クックック）
　早鬼：あっはっは！　笑いが止まらないな！
　　　　吉弔の奴が袿姫を倒したお陰で、我らが自由に動ける様になった。
　　　　見事だ！　吉弔に使われたフリをした甲斐が有ったな。オオカミ霊よ！
　妖夢：……はっ！　驪駒（くろこま）様。もったいなきお言葉で。
　妖夢：貴方が最強の動物霊……！　一体何者なの？
　早鬼：……その人間は私を知らないんだね。
　　　　失礼した、私は勁牙組（けいがぐみ）組長、驪駒早鬼である。
　妖夢：勁牙組……？
　妖夢：（この方は、私の親分だ。
　　　　勁牙組は強大な腕力、俊敏な脚力、無限の勇気を自慢とする動物霊の集団である。畜生界最強の組織だぞ）
　妖夢：畜生界最強……！？
　早鬼：袿姫を倒すための吉弔との苟且（かりそめ）の協力はもう終わった。
　　　　お前があの袿姫を倒してくれたお陰で、畜生界は再び競争社会へと戻ったのだよ。
　　　　となれば、我ら最強最速軍団勁牙組の天下だ。
　　　　程なくして畜生界は我ら勁牙組の物になるだろう。
　　　　いや畜生界どころか地獄界も人間界も……？　夢は広がるわ。
　妖夢：つまりは、私があの神様を倒したから貴方みたいなのが出てきた、と。
　　　　責任を取らないといけないわね！
　　　　私には貴方を止める責任がある。命を賭してでも！
　早鬼：ふっふっふ、心地良いな。
　　　　吉弔みたいな裏がある奴と違って、覚悟があって美しい。
　妖夢：……。
　早鬼：判っているな？　オオカミ霊よ。
　　　　お前は人間に全力で協力してかかってこい。
　　　　あの袿姫を倒した時と同じ力じゃないと面白くない。
　　　　さあ、邪神を打ち破る人間の力。この漆黒の天馬（ペガサス）に見せよ！