魔理沙：なんだよ暑いじゃねーか。このヤロー！
　ラルバ：なんだなんだ？　夏が暑いのは当たり前じゃない。妖精だって知ってるわ。
　魔理沙：こんなに暑いと思わなかったから厚着して来ちゃったじゃねーか。
　　　　　あー、暑くて死ぬぜー！
　ラルバ：よくみたら貴方、馬鹿みたいな季節外れの格好ね。
　　　　　もっと身体を動かして夏の暑さを全身で味わいましょ！
　ラルバ：あつーい！
　魔理沙：暑いぜー！
　ラルバ：暑いならなんでそんな格好をしているの？
　魔理沙：うちの周りは雪が降るくらいの真冬だったんだよ！　本当にどうなってるんだー？
　ラルバ：またまたそんな冗談をー。今は最高の真夏じゃないの。
　魔理沙：見れば判る。ここが夏である事は間違いない。
　　　　　久しぶりにつかみ所の無い異変だな。次は何処を調査すれば良いのか判らん。

　ネムノ：なんだ？　ここはうちのなわばりだべ。
　魔理沙：見た事のない奴だな。何者だ？
　ネムノ：それはこっちの台詞だなぁ。うちはここにずっと住んでいる。
　　　　　動いたことはない。そしたらお前がやってきたんだべ。
　魔理沙：おお、すまん。私は魔法使いの魔理沙だ。
　　　　　どうやらこの辺一帯だけ季節が秋になっているんだが。
　ネムノ：そんな話はしらん。それよりもここから出て行け。
　　　　　これ以上ここに留まるというなら、お前を開きにして天日に干すぞ！
　ネムノ：あんた強いな。魔法使い、だっけ？
　魔理沙：魔法使いと言っても人間だがな。
　ネムノ：ほう、人間、ねぇ。まるで伝説の金時みたいな人間じゃな。
　　　　　気に入った！　何でも話を聞くぞ。
　魔理沙：そうか、じゃあ訊くぞ。この辺だけを秋にした奴について何か知っているか？
　ネムノ：この辺だけ秋？　何の話だべ。
　魔理沙：幻想郷のあちこちで異常気象が起きているのは知っているか？
　ネムノ：知らん。
　魔理沙：他におかしな気候になっている場所を教えてくれ。
　ネムノ：うちはここから出ないから何にも知らんぞ。
　魔理沙：……邪魔したな。

　魔理沙：神社もおかしいんだよな。ここだけ異常に桜が咲いている。
　　　　　神社に異変を起こした奴がいるというのは考えにくいんだがな。
　あうん：あら魔理沙さん。いま霊夢さんは留守ですよ。
　魔理沙：誰だお前。
　あうん：嫌だなぁ。コマ犬の高麗野（コマノ）ですよ。初めましてですけど。
　魔理沙：初めましてかい。
　あうん：これでもこっそり神社やお寺の守護をしてきたんですよ。
　魔理沙：コマ犬っつーのはアレか。よく待ち合わせに使われる石像の。
　あうん：まーそれですね。こう見えても神社の守護神です。
　魔理沙：あっはっは。味方のフリをしたって騙されないぞ！
　　　　　何が守護神だ。現に、今の神社は異変まみれじゃ無いか！
　　　　　お前を倒して神社の季節を戻してやろう！
　あうん：負けたー。神社に尽くしてきたのにボコボコにされたー。
　魔理沙：お前から異変に繋がる妖気は感じなかったな。まあ、何だ。すまん。
　あうん：最初から私は神社の味方だって言ってるでしょ。
　魔理沙：じゃあこの異変調査の協力してくれるか？
　あうん：勿論ですとも！　神社やお寺だけ見ているけど、
　　　　　変わった事があるとすれば妖精が暴走していることくらいかなぁ。
　魔理沙：あいつ等、異変になるといつも暴走するけどな。
　　　　　後は……いつも隠れて活動していたコマ犬（おまえ）が出しゃばっているのも
　　　　　変わった事と言えばそう見えるな。一応、あと一つの季節の場所も調べてから結論付けるか。
　あうん：頑張ってー。影ながら応援してるわよ。
　魔理沙：調子狂うから応援はいいや。

　舞：もしかして君が選ばれた者なのかな？
　　　派手にやったつもりだったんだけど、出てくるの、思ったより遅かったねぇ。
　魔理沙：お前が森をこんなにした奴か！？
　成美：力がみなぎるわー！
　　　　何故だろう、こんなに魔力が溢れ出てくるなんて……。
　　　　これは目の前の人間に試さざるを得ない！
　舞：あはははは。今度の相手はこいつよ。それじゃあ僕は帰るねー。
　魔理沙：おい逃げるな！
　成美：なんだか判らないけど、吹雪が私に力を与えているみたい！
　魔理沙：お前は……何処かで見た事があるな。
　　　　　思い出した、魔法地蔵の成子（なるこ）じゃないか。
　成美：その声は、魔法人間の魔理沙？
　　　　魔法吹雪が酷くてよく見えなかったわ。
　魔理沙：さっきの奴を追うから、そこを退いてくれ。
　成美：嫌だね。今日は魔法試ししたい気分なの。
　魔理沙：引っ込み思案なお前が珍しいことを言うなぁ。私に勝てると思ってるのか？
　成美：今日は吹雪が後押ししている気分なの。だから負ける気がしない。
　　　　理由は特にない！　行くぞー！
　成美：まだまだ力が有り余っているわ！
　魔理沙：ちょっとたんま。お前の魔法、ちょっとおかしいぜ？
　　　　　何というか、普通じゃ無い魔力の溢れ方をしている。
　　　　　後ろから魔力が溢れている感じだ。自分では気が付いていないのか？
　成美：そうなのよねー。背中が熱いというか。
　魔理沙：そうか、それも気になるが……。ちなみにさっきの奴、あれは誰だ？
　成美：さっきの奴？　何の話よ。
　魔理沙：お前の後ろで踊っていた奴だよ。気が付いていなかったのか？
　成美：私はずっと一人だったと思うけど？
　魔理沙：そういえばお前は独りが好きなタイプだったな。
　成美：あーそれにしても背中が熱いわー。
　魔理沙：吹雪に当たって凍傷してるかもな。ちょっと見せてみろよ。
　　　　　え？　ちょっとお前！？　背中に扉がある！
　成美：え？　何それ怖い。
　魔理沙：間違いない、背中の扉から魔力が溢れているんだ……。
　成美：何がどうなってるの？　魔理沙、何とかしてよ！
　魔理沙：ぐぐ、これはどう見ても罠だと思うんだが……。
　　　　　これを逃すともう手掛かりも無い。叩けよ、さらば開かれん！

　魔理沙：なんだここは……。成子の背中の奥にこんな世界が広がっているとはな。
　舞：あれ！？　さっきの人間、どうやってここに……？
　　　あー、もしかして、さっきの地蔵の背中扉を開きっぱなしにしてたかな。
　里乃：もー、舞ったらおっちょこちょいなんだから。まだ指令も出てないのに人間を引き入れちゃってー。
　舞：まー、でも潮時だよ。随分派手にやったしさ。
　　　『よくやった、丁度良いんじゃない？』ってお師匠様も言うと思うよ。
　魔理沙：お前達は一体？　それにここは何処なんだ？
　舞：ふっ、僕は丁礼田　舞。
　里乃：私は爾子田　里乃。
　　　　改めて、ようこそ後戸の国へ。
　魔理沙：後戸の国？　聞いた事が無いな。罠だと思ったが、もう後には退けん！
　舞：安心しな。罠では無いよ。でも、君が選ばれた者なのか、これからテストする。
　里乃：貴方が弱すぎるとお師匠様に怒られちゃうからねー。
　舞：本気で行くよ！　死んだらそれまでだ！
　里乃：手加減はしないけど、死んだら殺すからねー！
　魔理沙：中々手強いな！
　舞：よーしそこまでで良いわ。
　里乃：まあまあ、及第点かなぁ。
　舞：よーし、おめでとう！　ごーかーく！
　魔理沙：ご、合格？　何の話だ。
　里乃：私達は背後で踊ることで対象の潜在能力を無限に引き出せるの。
　舞：僕達は普段隠れていた奴らの可能性を見つけだすと共に、君のようなアグレッシブな人材を探していたんだ。
　魔理沙：潜在能力を引き出す……ははあ、成子の背中の扉はそれの影響か。
　　　　　もしかして四季が狂っていたのは、妖精達の潜在能力を引き出したからか？
　舞：まあ、それは副作用だね。妖精達が勝手に暴走しただけさ。
　魔理沙：妖精を暴走させて幻想郷を混乱させてまで探したい人材……。
　　　　　そうか、それが私か。そうかそうか。
　舞：さてと、テストも合格したし。
　　　君を招待しよう！　背後の最高秘神の前に！

　魔理沙：一体何処に居ると言うんだ？　その秘神とやらは。
　　　　　それにこの世界は一体何なんだ？　何処に行っても扉ばかりで……。
　隠岐奈：おお、よくぞ来られた。お前が二童子の言っていた人間だな。
　魔理沙：そうだ、多分な。
　隠岐奈：ふーむ。その格好は何だ。不思議な服だな。
　魔理沙：魔法使いの正装だぞ。不思議なのも魔法使いならではだ。
　　　　　お前も大概だぞ？　一体何者なんだ？
　隠岐奈：私は摩多羅　隠岐奈。
　　　　　後戸の神であり、障碍の神であり、能楽の神であり、宿神であり、星神であり、この幻想郷を創った賢者の一人でもある。
　　　　　そろそろ、二童子（あいつら）の後任を見つけないといけない時期でな。
　魔理沙：後任？　二童子って、さっきの奴らのことだな。
　隠岐奈：そうだ、私の大切な両腕だからこそ、定期的に新しい人間に変えている。
　魔理沙：普段は何をやる仕事なんだ？
　隠岐奈：裏から幻想郷のバランスを取る仕事だ。フィクサーとでも言おうかな。まあ簡単なお仕事だよ。
　魔理沙：簡単かどうか判らんが面白そうな仕事だな。だが断る！
　　　　　私は私の好きなように生きていく。さっきの二人みたいになるなんてまっぴら御免だ。
　隠岐奈：あっはっは、何を勘違いしている？　最初からお前に選択肢など与えていないぞ。
　魔理沙：何だと？
　隠岐奈：誰を部下にするかは私が選ぶ。お前に是非など聞いておらん。
　魔理沙：ふん、力ずくで来るか。望むところだぜ！
　隠岐奈：お前の背中に四季の扉がある限り、私の制御下から逃れる術は無い。
　　　　　それでは最終暗黒テストを行うぞ。失望させたら殺すからな！

　舞：おお、君はこの前の。
　里乃：お師匠様を怒らせたらしいわね。
　舞：もうテストは終わりだよ。さっさと帰れ！
　魔理沙：おーい、居ないのかー？
　隠岐奈：また戻って来たのか。最終テスト途中で逃げたお前は残念ながら不採用だ。さっさと帰れ。
　魔理沙：テスト途中で逃げた……か。やはりそうなのか。最初はお前が逃げたと思っていたが。
　　　　　よく考えてみると、自分が逃げた可能性の方が高い気がしてな。
　隠岐奈：そんな臆病なお前が何の用事だ？
　魔理沙：今日は再戦しにやってきた。
　　　　　別に採用されたいと思っている訳では無いが、心情的に負けたままにしておけなくてな！
　隠岐奈：お前は人間だが魔法を使うんだよな。なら判る筈だ。
　　　　　何故お前が手も足も出なくなって逃げ出したのかを。
　魔理沙：全ての背中の装備はお前の移動装置兼、魔力回収装置だな。
　　　　　背中の装備を通じて、お前は動かずして全てを手に入れている。
　　　　　そいつを使えばどんな人間からでも魔力を吸収できる。
　　　　　そして要らない奴は扉からどっかへ飛ばすことも出来る。
　隠岐奈：そうだ。つまりお前に勝ち目は無い。そこまで判っていてよく来たな。
　魔理沙：そうはいっても負けたままで居るわけには行かない。
　　　　　だから今度はお前の罠を逆に利用してやるぜ。
　隠岐奈：利用……？　ほう、それは何だ。
　魔理沙：私の背中を見よ！　これが答えだ！
　隠岐奈：ほう……今のお前の背中の扉は、もっとも生命力が失われる季節の境目、土用か……。
　魔理沙：どうだ！　これならお前が強制解放しても退出先が存在しない！
　隠岐奈：ふっふっふ、そう上手くいくとは思わないが、悪くない策だ。
　魔理沙：今度は心置きなく戦わせて貰うぜ！
　隠岐奈：気に入った！　一度は不採用にしたが、やはり思い直そう。
　　　　　その聡明さと大胆さに惚れた。不採用取り消しだ。それでは再度、最終テストを行う。
　　　　　今度は季節の魔力は使わない！　真なる秘神の秘術をしかと見よ！
　魔理沙：もう私の勝ちだろ！
　隠岐奈：お見事！　テストは合格よ！
　魔理沙：ふう、手強かったが何とかなった。これで心置きなく安眠できる。
　隠岐奈：と言うわけで、採用です！　うちで働いてくれるんだよね？
　　　　　どっちが良い？　生命担当の丁礼田と精神担当の爾子田。今ならどっちでも良いわよ。
　魔理沙：働くつもりは無いって言ってるだろ。
　　　　　って、もし私が働いたらさっきの二人はどうなるんだ？
　隠岐奈：引き継ぎをしたら解放して人間に戻してあげるつもりよ。
　　　　　貴方が仕事を引き受けてくれないとずっとあのままだけど。
　魔理沙：あの二人もお前の魔力で動く傀儡なのか……。
　　　　　まあ、私が代わりになる気は毛頭無いな。
　　　　　それはともかく、四季異変は辞めてくれないか？
　　　　　森が冬のままだと暖房代も馬鹿にならないからな。
　隠岐奈：四季異変は背中の扉の副作用よ。
　　　　　でも、幻想郷全域に背中の扉を使うのはこれっきりにしておくわ。もう、十分伝わったと思うし。
　魔理沙：ん？　誰にだ？
　隠岐奈：今の幻想郷のみんなと、別の賢者にね。
　魔理沙：つまり自分の力凄いぞアピールか。さもしい奴だなー。
　隠岐奈：神様にはそれが必要なのよ。判ってくれる？
　魔理沙：あー、確かにそういう奴一杯居るな。
　　　　　まあいいや、四季異変は収まっていくんだろ？
　　　　　大した被害も出てないし、今回は大目に見てやるよ。
　　　　　その代わり、四季異変を解決したのは私だと言いふらそう。
　隠岐奈：あー、自分の力凄いぞアピールだー。
　魔理沙：そうだ。何か悪いか？
　隠岐奈：悪くは無い。悪くは無いが、何だかなぁ。
　　　　　ともかく、私は気長に待ってるよ。貴方の心変わりを。
　魔理沙：そのつもりは無いって言っている。
　　　　　それに勝負に負けたら突然口調が変わって気持ち悪いな。