Extra 蓬莱人形
満月の下の、草木も眠る丑三つ時。
人間と妖怪の肝試しは、いったい何を恐れる?
最大の大罪の犠牲者は、いったいどこに居る?
慧音:
待っていたぞ。
満月の夜にやってくるとはいい度胸だ。
霊夢:
これが肝試しの肝?
慧音:
あの人間には指一本触れさせない!
霊夢:
なんだったのかしら。
確かに妖精たちが騒いでいる様だけど……。
???:
今夜の月は、また一段と強い。
妖の者が騒ぐのも無理が無いわね。
こんな夜に出かける馬鹿者も居るんだねぇ。
霊夢:
誰?
???:
お前だよ。
霊夢:
いや馬鹿者の事じゃなくて。
紫:
馬鹿者ってところは認めるのね。
妹紅:
私はずっとここに住んでいる人間。
今ここに居るのは馬鹿だからじゃないよ。
紫:
人間?
人間ねぇ。
霊夢:
この竹林の持ち主か何かかしら。
妹紅:
で、目的は何? お馬鹿さん。
霊夢:
肝試し。
紫:
肝とか色々試し。
妹紅:
なんと肝試し!
ああ、何時から人間はこんなに馬鹿に
なったのかしら?
こんなに狂おしい満月の丑三つ時に、
こんなに妖怪が沢山出る処まで来て、
事もあろうか肝試し!
妖怪に殺されなかったのが不思議ね。
それに死んだら、妖怪達に生き肝を
喰われる肝試しなんて――
紫:
言われ放題よ。
霊夢、何か反撃しないの?
霊夢:
いやまぁねぇ。肝試しったって、
輝夜がほれいけ、やれいけって言うからさぁ。
妹紅:
今なんて?
輝夜って言った?
霊夢:
言ったっけ?
紫:
か・ぐ・や、言ったわ。
妹紅:
むきー!
肝試しなんておかしいと思ったら、
やっぱりあいつの仕業なのね。
そうか、今度はこいつ等をけしかけて
私を始末しようとしているな?
あいつったら、いっつもいっつも私を
始末しようとして!
全く、こんな不便な体にしたのは
あいつじゃないの!
霊夢:
なんか、一人で盛り上がってるわね。
紫:
ほら貴方も便乗しないと損よ。
妹紅:
ふん、輝夜の使いがどれほどのもん
なのか見せて貰おうか。
あいつが遣したって事は、あいつよりは
強いんでしょ?
紫:
強気な人間ね。私みたいな妖怪相手に
そこまで強気な人間なんて、
3人位しか知らないわ。
霊夢:
でも、人間相手に戦うのはちょっと
気乗りしないわね……
紫:
何言ってるの。
魔理沙は余裕でのして来たじゃないの。
妹紅:
私を普通の人間だと思うな。
私は死なない。絶対に死ぬ事が無い。
あのにっくき輝夜の所為で。
そうよ、いくらあいつが私を始末しようと
しても、どだい無理な事。
あいつはそれが判ってて使いを遣して来る。
腹立たしいにも程があるわ。
紫:
ほら、霊夢。
また乗り遅れてるわよ。
霊夢:
よく分からないけど。
死なないって事は、
思いっきりやってもいいって事?
紫:
中正解ね。
絶対に死なないのが自慢みたいだし。
妹紅:
思いっきりやらなきゃ、
貴方の人生ゲームオーバー。
もう戻り橋にも戻れない、
一方通行の丑三つ時。
お望みどおり。
貴方達の肝、試させて貰うわよ。
妹紅:
あーれー。
強すぎるぅぅ。
紫:
あらほんと、まだ生きているわ。
ほんとに死なないのね。
霊夢:
最初は何度も死にかけて頼りないから
びっくりしたわよ。ほんと。
妹紅:
痛い痛い、死なないけど痛い~。
紫:
霊夢、この娘面白いわ。
霊夢:
いや、痛がってるのを見て面白い言うのは
ちょっと。
妹紅:
こんなに強いんじゃ、肝試しもへったくれも
無いじゃない。
紫:
そう?
私だって怖い物も色々あるわよ。
霊夢:
まんじゅうとかでしょ?
紫:
そう、あの丸いフォルムが大きな蟲の卵を
彷彿させて、そして中のあんが……
妹紅:
いやぁぁ。まんじゅう怖い。
霊夢:
それはともかく、肝試しはこれで終了かしら?
紫:
あれ?
そう言えばまだ肝を試していないわね。
霊夢:
?
紫:
ほら、目の前の人間の生き肝。
霊夢、貴方が掻っ捌いて確認しなさい。
妹紅:
ひぇぇ。
死なないけど怖い。
霊夢:
なんで私がそんな妖怪じみたことしなきゃ
いけないのかしら?
紫:
あら、不老不死の人間の生き肝を食せば、
貴方も不老不死になれるわよ。
霊夢:
というか、人間やめるのは
ちょっとねぇ……
妹紅:
あら酷い。私は人間じゃないって言うの?
霊夢:
人間……、なのかな?
よく分からないわね。
まぁどうせ、今の幻想郷は人間なのか
違うのか判らないような連中ばかりよ。
いまさら、魂を入れる器の違いなんて
大したもんじゃないのかな?
紫:
でも博麗の仕事は妖怪退治。
それは妖怪差別かしら?
霊夢:
前言撤回。妖怪は退治されるもの。
人間は退治するもの。
これは動かせない約束事ね。
これからも私は、妖怪を退治するわ。
紫:
大・正・解。