夜は本物の月の光が幻想郷を照らし、昼は太陽の角度が低くなっていった。
それは、人間にとって最も丁度良い温度になったといえる。
幻想郷はいつも通り平和だった。
霊夢 「あーもう。退屈ね。」
博麗神社、幻想郷の境にある神社である。
そこの巫女さんはいつも暇だ。
魔理沙「そうだなー。なんか無いのか?
いつも大異変の後には余震の様な異変が起こるもんだがな。」
霊夢 「異変じゃなくてもいいけどね。」
魔理沙も大体暇だ。
咲夜 「だから、こうして構えているってのに、変ね。
何にも起きないわね。」
魔理沙「身構えてるから恐れをなしたんじゃないのか?」
神社とメイドの組み合わせは案外相性が良い。
妖夢 「いや、何か起きますよ。幽々子様がそういってましたから。」
霊夢 「……」
余り信憑性はない。
カコーン。
ししおどしは無いのだが、その音が頭の中に響いた気がした。
その位退屈である。
輝夜 「そんなに暇だったら、今夜の満月の晩、肝試しをしてみない。」
霊夢 「って、何時の間に神社の中にー。」
神社の中の方から出てきたのは、輝夜だった。宇宙人である。
常人には宇宙人の行動も思考回路も不明である。
魔理沙「肝試しって、あんまり怖いもん無いぜ。」
輝夜 「大丈夫よ、本当の満月が照らす様になった今、丑三つ時に竹林に
来て見なさい。本当の恐怖が味わえるわよ。素敵。」
咲夜 「って、貴方、何か仕掛けてあるのかしら?」
輝夜 「仕掛けなくても……、怖いわよ。ほんと。貴方の御主人様なんかよりずっとね。」
妖夢 「肝試しは……、私はちょっと……。」
霊夢 「半分幽霊が一番びびってどうするのよ。」
大体の人は暇だったので、見た目とは裏腹に割と乗り気である。
それに輝夜の様子は、明らかに何かある様にしか見えなかったのだ。
霊夢 「肝試しなんかにかまけている時に、何か起きたらどうするのよ。」
魔理沙「こいつが肝試しをけしかけて来た、ってところが既に異変の入り口だぜ。」
咲夜 「何か起きても、順番に行って残りは神社に居れば大丈夫ですわ。」
妖夢 「え~、本当にやるんですか~、肝試し~。」
やる気だ。
輝夜 「あ、そうそう。肝試しは私の処に来た時と同じ様に二人一組でお願いね。
片方に何かあったときにすぐに連絡が出来る様に。」
霊夢 「何かやっぱり怪しいわね。」
魔理沙「この間の仕返しでもするつもりか?」
輝夜 「何言ってるのよ。全ては貴方達の安全を考えての事。」
咲夜 「肝試しをけしかけて来た人の言う言葉じゃないわね。」
妖夢 「是非二人でやりましょう。」
結局、人間達は輝夜に唆されてか暇だからか、肝試しは今夜の丑三つ時に出ることとなった。
とりあえず、パートナーの妖怪達に声を掛けてまわる四人。
そもそも妖怪だろうが幽霊だろうが何でもござれの幻想郷。
果たして何が怖いというのだろう。
輝夜 「ついでだから、あいつも退治してくれると助かるんだけどね。」
本当の満月に照らされた竹林は、霊夢達の想像をはるかに越える妖精、妖怪の群れが自由に跋扈していた。
こんなに騒がしいところじゃ肝試しもへったくれも無く、むしろ妖怪退治になると思う。
輝夜 「いざ肝試し。肝を試すのよ。肝。」
人魚の肝を喰らうと不老不死になるというが……。