Extra 蓬莱人形
満月の下の、草木も眠る丑三つ時。
人間と妖怪の肝試しは、いったい何を恐れる?
最大の大罪の犠牲者は、いったいどこに居る?
慧音:
待っていたぞ。
満月の夜にやってくるとはいい度胸だ。
妖夢:
……肝試しでも、お前は怖くない!
慧音:
あの人間には指一本触れさせない!
妖夢:
急に……、攻撃が止んだ。
こういうときが一番怖いです。
???:
一際異彩を放つ、幽霊の姿。
こんな満月の下の草木も眠る丑三つ時。
幽霊は珍しくは無いけど、その確かな姿、
目立つわね。
妖夢:
うわ、出た!
幽々子:
妖夢、出たわよ。
妹紅:
幽霊に、出た、言われてもねぇ。
幽々子:
……。
妖夢:
なんだ、人間か。
間違って斬るところでしたよ。
って、こんな時間に人間?
やっぱり不自然よ!
幽々子:
………。
妹紅:
私は最初からここに住んでいるの。
時間はともかく、貴方達よりは自然だわ。
で、貴方達は何の用かしら。
妖夢:
私達は肝試しに――って、幽々子さま?
幽々子:
妖夢、そいつに近づいてはいけない。
妖夢:
幽々子さま……。
幽々子:
そいつは、他の人間とは違う。
触れてはいけない。
その呪いで穢れてしまう。
食してはいけない。
その毒で呪われてしまう。
何より……。
私の術が効かない。
妹紅:
なんか、酷く嫌われてるようね。
初対面なのに。
それに、いきなり術って、何をかけようと
したのかしら。
妖夢:
幽々子さまは、人間を死なす事が出来る。
それが効かないというのは――
妹紅:
いきなり取り殺そうとしたの?
物騒な幽霊ね。
妖夢:
お前は人間ではないな?
って、それじゃ幽々子さまが怯えている
理由が判らないけど。
妹紅:
あいにくだけど、人間よ。
ただちょっと死なないだけ。
幽々子:
蓬莱人……。
怖いわ、妖夢。
妖夢:
肝試しに来るまではあれほど平気だった
のに……、何か変な物でも食べました?
まぁ、この場は私が何とかします。
怖いもん無しの幽々子さまが、こんなに
怯えるものがあるなんて思わなかった。
妹紅:
幽霊と私では、相性が良くないのかな?
なんだか腹が立ってきたよ。
もう攻撃開始しようかな~。
妖夢:
でも、何をそんなに怯えているんですか?
幽々子さま。
幽々子:
蓬莱の薬を飲んだ人間は不老不死になる。
その不老不死の人間の生き肝を食すと、
その人も不老不死になる。
その生き肝を亡霊が食すと……?
死ねない亡霊が生まれるわ。
そして、蓬莱の輪廻は終る。
成仏も転生も出来ないし、薬も続かない。
まぁ食べなければいいんだけどね。
妖夢:
じゃあ食べるなー!
妹紅:
全く、ふざけた幽霊達ね。
もしかしたら、幽霊になるとこんなに
おかしくなるのかしら?
死ねない私には確かめ様がないわね。
妖夢:
心配した私が馬鹿でした。
幽々子さまはやっぱり幽々子さまですね。
幽々子:
食べるかもしれないよ~。
目の前の不老不死の生き肝、美味しそうね。
妖夢:
幽々子さまの手の届かない処で始末します。
妹紅:
果たして、死人が私を斬る事が出来るかしら?
妖夢:
仲間を増やす事は出来ないかもしれないけど、
本当に死なないのか試させてもらうよ。
妹紅:
成仏を忘れた亡霊は新たな生を生まない。
死ねない人間は色鮮やかな冥界を知らない。
生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く
死に死に死に、死んで死の終わりに冥し
死を知らない私は闇を超越する。
暗い輪廻から解き放たれた美しい弾幕を見よ!
妹紅:
なんてこと!
もう体力の限界が……。
妖夢:
不老不死でも体力には限りがあるのですね。
幽々子:
さぁ、相手の動きが鈍くなってきたわ。
今よ!
妖夢:
何の今ですか!
食べないんでしょ!
妹紅:
死ねなくても、闘い続ける事は出来ないわ。
体のあちこちが痛い。
幽々子:
亡霊はいいわよ。
体は痛まないし。貴方もどう? 亡霊は。
妹紅:
人の話聞いてました?
妖夢:
死なない人間は面白いですね。
力一杯闘ってもいいという安心感があって。
幽々子:
あら、貴方いつも手を抜いているのかしら?
妖夢:
いえ、滅相も無いです。
妹紅:
それにしても、強い。
何でそんなに強いのよ。
みんな私より年下でしょう?
幽々子:
人間には強さの限界があるからに
決まってるじゃない。
貴方は、いくら頑張っても幽霊に勝てない。
妖夢:
幽霊はあんまり関係無いと思いますが、
むしろこっちは二人で闘ってい……
幽々子:
あら、目の前に不老不死の生き肝が。
珍しいわね。
妖夢:
幽々子さま~。
妹紅:
しょうがない。
もう痛くて動けないし、
煮るなり焼くなり好きにしな!
幽々子:
煮ても焼いても駄目よ!
肝は、生で食すのよ。
煮ても焼いても蓬莱の効力は無くなるわ。
妖夢:
じゃあ、焼きましょう。
妹紅:
焼かれても死なないけどね。
ちょっと熱いだけ……、しくしく。
妖夢:
ところで、何でこんなことになったん
だったっけ?
幽々子:
貴方が肝試しに行く嵌めになったって
誘ったんじゃないの。
妖夢:
ああ、それでですか。
だからさっきから生き肝、生き肝、
言ってたんですか。
肝試しは途中で中止です。
輝夜に騙されたのが判ったから。
輝夜は明らかに、この人間と戦わせたがって
いたんですよ。肝試しなんて嘘もいいところ。
幽々子:
中止?中断でしょ?
肝試しはこれから再開するわよ。
妖夢:
えー……
実は私、怖い物苦手なんですよぉ。
幽々子:
ほらあそこの竹の下に幽霊が……。
妖夢:
ひえぇぇぇ。