東方永夜抄 – 禁呪の詠唱 – StageEX

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Extra 蓬莱人形

   満月の下の、草木も眠る丑三つ時。
   人間と妖怪の肝試しは、いったい何を恐れる?
   最大の大罪の犠牲者は、いったいどこに居る?

慧音:
待っていたぞ。

満月の夜にやってくるとはいい度胸だ。

魔理沙:
肝試しだからな

慧音:
あの人間には指一本触れさせない!


魔理沙:
むしろ何も起きない事が不気味だ。
不条理だな。

???:
本当の恐怖は、約束された恐怖の
向こうにある。

居るはずのお化け役が消えたお化け屋敷程、
怖い物は無いのよ。

鳴く夜雀も黙る丑三つ時の竹林。
こんな時間にほっつき歩く人間が居るなんて。

魔理沙:
何者だ?

アリス:
魔理沙、こいつは……。

妹紅:
私は昔からここに住む人間。
別に取って喰ったりしないよ。

魔理沙:
人間だと?
そうは見えないがな。

アリス:
魔理沙、この人は確かに人間みたいだけど。
気をつけて。

妹紅:
で、こんな時間にここに来た目的は何?

魔理沙:
筍狩り。

アリス:
肝試し。

妹紅:
どっち?

魔理沙:
判れよ……。

妹紅:
満月の下、人間と妖怪の二人で肝試し。

人間は勇気があるというか、馬鹿というか。

そこな人間の肝は、さぞ硬くて歯ごたえが
あるんでしょうね。

魔理沙:
あんた本当に人間か?

これほど肝好きの人間見たこと無いぜ。
しかも生きているし。

アリス:
魔理沙には生きている様に見える?

私には死んでいる様に見える。
いや、生きていない様に見える、かな?

妹紅:
もう、人を幽霊みたいに扱ってぇ。

でも、殆ど正解だわ。
なかなかの幻視力ね。

魔理沙:
肝好きってところか?

妹紅:
実はね。

私には死が無いの。

死なないって事は、生きてもいない。

死と生という余計な状態が無くなり、
純粋な人間に近い人間。

ある意味幽霊みたいなものかもね。

アリス:
死なないですって!
煮ても焼いても。

魔理沙:
蒸しても揚げてもなんて言ったか?

アリス:
人間が不老不死になったって事は……。

例の伝説の薬が存在するって事よ。
やっぱり嘘じゃなかったんだ。

魔理沙:
何の話か判らんな。

一体、誰に嘘の様な本当の話を
吹き込まれたと言うんだ?

妹紅:
例の薬?
蓬莱の事?

そんなもの、とうの昔に全て使って
しまったよ。

確かに私はその薬を奪って、不老不死となり
今に至る。

輝夜はいまだ私を亡き者にしようとするが、
それも無理な話ね。

もう千年以上も続く馬鹿な争いよ。

魔理沙:
判ったぜ。
全て判った。

やっぱり、今回の肝試しのお化け役はお前だ。

輝夜に肝試しの話を持ちかけられた時から
おかしいと思ったんだ。

輝夜を倒した私なら、お前を始末できると
踏んだんだろうな。

アリス:
ちょっと! 輝夜を倒したのは魔理沙一人の
力じゃないでしょ?

それに、人間を倒すのは妖怪の仕事。
目の前の貴方は、私に倒されるべきなの。

妹紅:
なんと、輝夜を倒した?
目の前のこんな二人が?

なんと言うことかしら。あのにっくき月人が
こんな人妖にやられるなんて。

これは久しぶりに歯応えのある刺客に
なりそうね。

いや、歯応えがあるのは肝かしら?

アリス:
残念だわ、蓬莱の薬。
是非とも手に入れてみたかったわね。

魔理沙:
私の肝は健康だ。硬くは無い。
したがって私には薬は不要だよ。

妹紅:
蓬莱の薬、人間は決して口にしては
ならぬ禁忌の薬。

一度手をだしゃ、大人になれぬ。
二度手をだしゃ、病苦も忘れる。

三度手をだしゃ……、
お前達も永遠の苦輪に悩むがいい!


妹紅:
あーれー。
歯応え在りすぎるぅ。

魔理沙:
まだやるか?
死なない、ってのは本当の様だな。

アリス:
死ななくても、そろそろ動ける限界が来てる
んじゃないかしら?

妹紅:
もうとっくに限界よ。いい加減にしないと、
明日筋肉痛で動けなくなっちゃうわ。

アリス:
筋肉痛で済むの?

魔理沙:
いつも思うんだが、不老不死の体を丁度
半分に割ると、どっちが本体になるんだ?

アリス:
いつも思わないでよそんなこと。

不老不死は、肉体を捨てる事。

魂のみが本体となり、新しい肉体を生める
ようになる事よ。

魂は大きさを持たないから、好きな所に
新しい肉体を造る。

逆に魂を失った肉体はすぐに滅ぶでしょう?

妹紅:
やけに詳しいわね。

蓬莱の薬を欲しがっていたみたいだし、
不老不死にでもなろうとでも思ったの?

アリス:
別に。魂に興味があっただけよ。
人形を自立させられないかと思ってね。

それに妖怪には効かないんでしょう?
その薬。

魔理沙:
なぁ、気になるんだが。

魂が大きさを持たないなら、妖夢にくっつい
ているアレはなんなんだ?

アリス:
アレは幽霊でしょ? 別物よ。
そんなところを気にしないの。

妹紅:
私が不死なら幽霊は不生。

肝と形が異なるだけで、似たようなものかもね。

魔理沙:
そうだった。
どうだ? 私の肝試しは。

妹紅:
そうねぇ。硬くて黒くて……。
肝硬変?

魔理沙:
げげ、そんなにお酒飲んでたっけ?

アリス:
魔理沙、肝臓が悪い時は肝臓を食べるのよ。
それに不老不死の肝はね……。

魔理沙:
不老不死とはいえ、人間の肝はちょっと。

妹紅:
不老不死の体は、病には冒されないから、
中まで奇麗よ。

食べさせないけど。

魔理沙:
食べないよぅ……。
不老不死は魅力だがな。