Final 姫を隠す夜空の珠
永い永い廊下。この廊下は何者かが見せる狂像か。
近すぎる月の記憶は、妖怪には懐かしく、薄い物だった。
永琳:
ふふふ。
無事ついて来てるようね。
幽々子:
追いついた。
もう逃さないわよ。
妖夢:
ええ、逃しませんとも。
妖夢:
えぇーと。
何処にいった?
永琳:
ここ、ここ。
さすが半人前ね。
こんな短時間で見失うなんて。
幽々子:
何やってるのよ。
その大きな半幽霊は何の為についているの?
妖夢:
尾行の為じゃ無いですよ。
永琳:
まぁ、ここは私が作った偽の通路。
貴方達が見失うのも無理は無いわ。
妖夢:
偽の通路?
幽々子:
偽の月に偽の星空。
ほんと、手の込んだ事をしたものね。
永琳:
あら、よく分かったわね。
あの月が幻影だって。
幽々子:
大昔の月よ、あれは。
月がまだ天上にあった頃の月。
妖夢:
昔ですか?
幽々子:
古臭い、黴の生えた月。
今の月には兎はいないものねぇ。
永琳:
あいにく、今でも兎はいるわ。
月の民も兎も、月の裏でひっそりと
暮らしているよ。
結界を張ってひっそりと……。
そう、幻想郷の様にね。
妖夢:
月の幻想郷?
永琳:
そしてこの幻影の月は、月の記憶。
古臭く見えるのはその為よ。
妖夢:
で、そんな黴臭い月を持ち出して
何をしようとしてたの?
永琳:
用事ならもう済んでいるわ。
満月は月と地上を結ぶ唯一の鍵。
これさえ無くせば、追手も月から
地上にやって来れない。
今頃、偽の地上に辿りついている
でしょう。そう、黴臭い地上に。
幽々子:
あなたは、犯罪者なのね。
何かから逃げる者は罪を犯した者。
身を隠そうとする者は罪を認めた者。
そして、罪を認めた犯罪者は
言い訳を始めるわ。
妖夢:
……。
永琳:
いや別に。
あんまりにもここが居心地が良かったから、
月に帰りたくなかっただけよ。
安心していいわ。
朝になれば満月は元に戻してあげるから。
妖夢:
幽々子さま、私に何かご指示を。
幽々子:
あら、今頃になって私の言ってたことが
判ってきたのかしら。
じゃあ、まずは私の盾になりなさい。
妖夢:
お任せください。
冥界一硬い盾、ごらんに入れましょう。
幽々子:
気が向いたら援護してあげるから。
永琳:
あはははは。
盾は外からの力を防ぐ力しか持たない。
我ら月の民は内なる力に作用させる
能力を持つの。
あなたが硬い盾になっている内に、中の
やわらかい部分から腐っていく……。
そう、そっちの能天気なお嬢さんからね。
硬い盾なんて無意味だわ。
幽々子:
妖夢、安心して。
ナマ物じゃないから腐らないわ。
妖夢:
判ってますよ。
最初から腐っていることぐらい。
でも、腐っていてもお守りするのが
魂魄家の役割なんですよ。
幽々子:
腐らないってば。
永琳:
いつまでその余裕が持つかしらね。
留処なく溢れる月の記憶。
これを浴びた地上人で狂わなかった
人は居ない。
幽々子:
仕様が無いわね。妖夢、狂わないように
これだけは覚えておくのよ。
永琳:
ああ、人じゃなくて幽霊ね。
それじゃ腐らないか。
幽々子:
腐りかけが一番美味しいの。
妖夢:
今それを教えられても……。
永琳:
言うわね。
でも、発酵の能力は神の力。
貴方達亡霊は神も見捨てたって事よ!
???:
何遊んでるのよ!
永琳、私の力でもう一度だけチャンスをあげる。
これで負けたらその時は……。
そこの亡霊!
私の力で作られた薬と永琳の本当の力、
一生忘れないものになるよ!